■長女の「過度な状況説明」コメントで逮捕に疑問も「暴行罪はけががなくても成立」
──家庭内で「しつけ」や「教育」として親が子に手を上げるという話を聞くことがありますが、暴行との線引きはどこにあるのでしょうか。
「しつけと暴行の線引きは、けがの有無だけで決まるものではありません。刑法上は、相手の胸ぐらをつかむ、押す、倒す、叩くといった直接的な行為の他にも、相手の近くの机を叩くなどといった人の身体への不法な有形力の行使があれば、けががなくても暴行罪に当たり得ます。
危険を避けるために一瞬腕をつかむような必要最小限の制止は別ですが、教育目的を掲げても、暴行などの身体的苦痛や恐怖を与える行為は正当化されにくいのが現在の実務です。痕が残るか、病院に行くかという基準ではなく、行為の必要性、相当性、危険性が重視されます」
──「行為の必要性、相当性、危険性」とは、具体的にどのような意味でしょうか。
「“必要性”は、その行為の目的が、緊急の安全確保などを目的としたものであれば問題ありませんが、“お仕置き”として行うのなら許されないということです。
“相当性”というのは、目的は正しくても、その行為が必要最小限で過剰になっていないかどうか、“危険性”は、その行為の方法などが、どれほど重大な結果をもたらすようなものであるか、ということです。
兄弟けんかを例にとって考えると、けんかの仲裁自体はお互いの怪我を防ぐために通常は必要性が認められます。けんかを止める際に、殴りかかろうとする子の体を抱きかかえたり、物を振り回す子の手首を掴むような行為も相当と言えます。しかし、けんかを止めるためとはいえ、子どもを床に突き飛ばしたり、髪を引っ張ったりすれば、怪我をしかねない危ない行為ですし、普通はそこまでしなくても引き離せることが多いと思われるため、相当とは言い難くなっていくでしょう。
なお、上記の説明はあくまで一例になります。実際には、状況に応じてもっと色々なことを複合的に検討して判断されます」
──被害者とされる長女自ら「過度な状況説明によって報道内容が事実と異なってしまった」との声明を発表しています。被害がない、または軽微な場合でも、注意等ではなく逮捕されてしまうものなのでしょうか。
「現行犯逮捕は、現に罪を行い、又は行い終わった者などについて、罪証隠滅(被害者に口裏合わせを求めるようなことも含みます)や逃亡の恐れがあるなどの逮捕の必要性がある場合に認められます。そのため、逮捕に至った理由としては、通報内容、現場の状況、被害者側の申告等から、当事者を一時的に引き離す必要性があったこと、つまり罪証隠滅のおそれなどがあると判断されたことが考えられます。
また、逮捕されたからといって、必ず重大なけががあったとは限りません。暴行罪はけががなくても成立するからです。家庭内で再度トラブルになるおそれがある、加害者が飲酒していた、被害者が不安を訴えているといった事情があれば、初動対応として逮捕が選択されることがあります。その後、未明に釈放されたのであれば、逃亡や証拠隠滅、再加害のおそれはないと判断された可能性があります」