十字架、聖水、ラテン語の祈り。1973年公開され大ヒットしたホラー映画『エクソシスト』で、悪魔に取り憑かれた少女と対峙する神父の姿は、今なお“悪魔祓い”の強烈なイメージを残す。

 だが、それは映画だけの話ではない。エクソシストはイタリアだけでも約300人、全世界では1000人規模で存在する。

 カトリック豊島教会主任司祭の田中昇さんは、バチカンの国際エクソシスト協会が認定している日本で唯一のエクソシストだ。混乱を極める令和の日本、悪魔と対峙を続ける男は何を思うのか──。本サイトは、田中さんを直撃した。

「私が初めてエクソシストに任命されたのは、二〇一六年のことでした。対象者は三〇代の男性です。両親とともに現れた彼は、面談時は特に変わった様子がありませんでした。ですが、悪魔祓いの儀式書に書かれた祈りを始めたとたん、豹変したんです。髪の毛をかきむしり、やがて動物のような唸り声を上げました。

“この人は、悪魔に憑かれているかもしれない”

 彼の親も彼を私に紹介した教会のP神父も、そう思っていました。それまで礼儀正しかった話し方が一転、汚い言葉が飛び交うようになり、“俺は、この男の体を乗っ取っている”ということまで言う。つまり、別人格が現れていたんです。

 祈りを続けると、男性に現れた別人格が、さらに言葉を発する。

 次第に“風呂の湯が汚ねえ”“メシがまずい”といった生活の不満を口にし始めました。さらに、繰り返し体の痛みを訴えた。聖水を撒いた効果かなとも思いましたが、どうやら違う。

 祈りが続く中、儀式に同席したP神父が、男性の手に十字架を握らせました。本来、対象者に十字架を持たせるという指示は、儀式書の中にはありません。混乱が続く姿を見て、P神父は男性の心を落ち着かせようとしたのでしょう。

 しかし、そこで私は気がつきました。もし悪魔が憑いているのなら、十字架を嫌うはず。でも男性は、特に取り乱すことなく十字架を手にしていたんです」