十字架、聖水、ラテン語の祈り。1973年公開され大ヒットしたホラー映画『エクソシスト』で、悪魔に取り憑かれた少女と対峙する神父の姿は、今なお“悪魔祓い”の強烈なイメージを残す。
だが、それは映画だけの話ではない。エクソシストはイタリアだけでも約300人、全世界では1000人規模で存在する。
カトリック豊島教会主任司祭の田中昇さんは、バチカンの国際エクソシスト協会が認定している日本で唯一のエクソシストだ。混乱を極める令和の日本、悪魔と対峙を続ける男は何を思うのか──。本サイトは、田中さんを直撃した。
「エクソシストの最初の任務は、対象者に寄り添い、状況を識別すること。最近では、この識別がエクソシストにとって最も責任ある任務だと、国際エクソシスト協会も強調しています。
対象者の状況の識別を重んじる背景には、信者への精神的虐待の問題があるんです。本当は病院で治療が必要な人に“悪魔が憑いている”と即断して勝手に儀式を行い、PTSDなど、さらに重い疾患を引き起こすケースが国を問わず起きているからです。教会は神秘的な事柄が多く、精神的に弱っている人にとって依存しやすい環境です。あってはならないですが、宗教の世界では、悪魔祓いは依存関係に持ち込むことで性暴力の機会としても使われやすいのかもしれません。
イタリア・ローマ教皇庁も、こうした事態を危惧しており、近年、罰則を設けようとする動きがあります。
そもそも、そうした暴力を防ぐためにも、古くからの原則ではエクソシストは単独ではなく補助者や医師などの専門家とともに任務に当たることが規定されています。古くはエクソシストを各教区に一人置くことになっていましたが、現実はそこまで達していません。
特に日本では現在、正式に常任のエクソシストはいません。私も各地の司教から事案ごとに相談を受けて動くのであって、自らの判断で勝手に動ける立場ではありません」
田中さんのもとには現在も「悪魔祓いをしてほしい」という相談が寄せられている。電話やメール、中には教会を直接、訪ねて来るケースもある。
「あるとき、信者ではないご家庭から、“娘がおかしくなった”という相談がありました。悪魔祓いについて知ったお父様が、娘さんに聖書を読み聞かせてみたそうです。すると、その続きを娘さんが全部しゃべったといいます。
娘さんはミッションスクールに通ったような経験もない。これは少し危ないぞと思っているのですが、遠方の方で、その後、連絡がありません。相談の中には、こうしたケースもあるのですが、九九%以上の方は、どこか精神的な弱さを抱えている方です」