■「正義と悪が入り乱れる現代の状況は非常に危ない」

「実はここ一年、カトリック教会の洗礼数が爆発的に増えているんです。近年、欧米ではキリスト教が下火になっていましたが、そうした国々で、特に大人の洗礼が目立っています。戦争などで国家間のバランスが変わり、社会全体にひずみが生じています。皆さん、藁にもすがる思いで、教会を訪れているのでしょう」

 ロシア・ウクライナ戦争やホルムズ海峡の緊張が世界を揺るがしている。日本でも闇バイトはじめ、かつては考えられなかったような事件が相次ぐ。

「悪魔の目的の一つは、人間を神から遠ざけること。人が、その本来あるべき善良さから離れたとき、悪魔がつけ入る隙が生じるんです。

 現代は正義と悪が入り乱れ、この状況は、非常に危ない。広く社会を見れば、人間はどんどん悪魔的な方向に流れている気がします。

 悪魔と悪魔的なものは、根底ではつながっているのでしょうが、悪魔祓いの対象としては両者を切り分けて考えなければいけません。

 ただ、もっと大きく教会のミッションとして見れば、悪魔的なものに対しても平和のために努めていく必要があります。

 私自身、生きていく中で不安を感じることはあります。職務上のこともあれば、一個人として悩んだり、苦手意識を持つこともある。お祈りすれば心が鎮まるかといえば、必ずしも、そうではありません。

 最近思うのは、こういうときのために教会があるのではないかということ。自分の心を共感してもらえる人に出会うことは生きるうえで、とても大切。十字架の形が示すように、人は縦と横のつながりによって支えられていると思います」

 AIやインターネットを使った事件も多発する現代だからこそ、人と人のつながりの大切さが改めて問われているのかもしれない。

取材・文/吉原一憲

【前編】では、三〇代の男性の「体を乗っ取っている」と言いながら、「風呂の湯が汚ねえ」「メシがまずい」といった生活の不満も口にし、手に十字架を握らせても嫌がらない“悪魔の正体”など、田中さんがこれまで対峙してきたケースと、彼らが抱える深刻な問題についても語ってくれている。《【前編】はこちらから》

田中昇(たなか・のぼる)
1976年、埼玉県出身。2001年、早稲田大学大学院理工学研究科修了(工学修士)。三菱化学に入社し、最新のゲノム創薬研究を行っていたが、科学技術至上主義的な生き方に疑問を持ち、退社。10年に日本カトリック神学院を卒業して東京教区司祭として叙階される。14年、ローマ教皇庁立ウルバノ大学にて教会法学教授資格(教会法学修士号)を取得、東京区教会裁判所裁判官となる。23年より、カトリック豊島教会主任司祭。