■地方移住の注意点を【CFPが解説】

──中村さんは現在、2か月に1回東京へ出かけています。必要となる旅費は年間で60万円ほどです。再び東京に戻り生活するよりは低い費用で旅費は収まっています。40万円以上の追加費用を出してまで再び中村さんが東京に戻って生活するメリットとデメリットはどのような点がありますか。

 東京に戻るメリットは、まず人的ネットワークを取り戻せることです。友人・知人との交流機会が増えれば、孤独感の軽減や生活満足度の改善につながります。また、通院、文化活動、アルバイトや再就職機会の多さも都市部の利点です。とくに50代は、完全引退よりも週数日働く方が心身の安定につながるケースがあります。

 一方のデメリットは、やはり固定費の上昇です。家賃高騰が続く東京都では、住居費が家計を圧迫しやすく、単身世帯ほど負担感が重くなりやすい点には注意が必要です。さらに、一度生活水準を上げると再び下げにくく、将来の資産寿命を縮める可能性もあります。

 結論としては、東京へ戻る価値は「年40万円の差額」にあるのではなく、その支出で孤独、不安、無気力がどこまで改善するかにあります。お金の損得だけでなく、人生の満足度まで含めて判断することが重要です。

──現在、都内では家賃の高騰が続いています。そのため退職後に地方都市での生活を検討する人も少なくないかと思います。退職後に地方都市での生活を決断する場合、金銭面ではどのような点に気をつけるべきですか。

 地方移住を考える際、多くの人は家賃や住宅価格の安さに目を向けますが、「都市では見えにくかった費用が増える」点に注意が必要です。代表例が車関連費です。購入費だけでなく、保険料、税金、車検、ガソリン代、駐車場代、買い替え費用まで含めると、年間数十万円単位の固定費になることがあります。

 また、地方は持ち家でも賃貸でも、都市部より広い住居を選びやすい反面、光熱費や修繕費が増えやすい傾向があります。加えて、病院、商業施設、役所が遠く、移動コストが積み上がるケースもあります。

 さらに見落とされがちなのが、交際費・帰省費・都市部への往来費です。「人間関係はそのまま、生活拠点だけ地方へ」という発想だと、交通費が継続的に発生し、思ったほど家計が軽くならないことがあります。公的統計でも単身世帯の家計データは継続的に把握されており、移住判断では住居費だけでなく生活全体の支出構造を見ることが重要です。退職後の地方移住では、家賃の安さだけで判断せず、5年・10年単位の総生活コストで比較することが失敗を防ぐポイントです。

【記事前編】では、FIREを決断するにあたって金銭面で気をつけるべきポイントや重要となる考えを宮岡秀峰氏が解説する。《【前編】はこちらから》

※税理士法人アクシア代表社員で、公認会計士・税理士、CFP資格を持つ宮岡秀峰氏

宮岡秀峰(みやおか・しゅうほう)
公認会計士、税理士、行政書士、CFP資格(日本やアメリカなど世界各国・地域で認定されている国際的なファイナンシャル・プランナーの最上位資格)。税理士法人アクシア代表社員、アクシア公認会計士事務所代表。公認会計士として会計・財務の視点から中小企業支援に取り組むほか、相続・事業承継分野にも幅広く携わる。講演や税務相談の実績も豊富で、会計・税務分野の書籍共著、雑誌寄稿も行なっている。

税理士法人アクシア 公式HP:https://axia.or.jp/