小学生から高校生を中心に、自分のことを「ボク」と呼ぶ少女が増えている。親世代は「女の子なのに、どうして?」と戸惑うところだが、かつて一部のオタク文化と見られていた“ボクっ娘”が、令和の現代で市民権を獲得しつつあるのは間違いなさそうだ。

「この現象は、あのちゃんの存在抜きには語れません。ただし、同じ“ボク使い”のアイドルとしては、元『でんぱ組.inc』の最上もがさん(37)が世に出たタイミングのほうが、あのちゃんの『ゆるめるモ!』加入より少し早い。ネトゲ廃人寸前だった最上さんが、当時は男社会だったオンラインゲームのMMORPG上でナメられないように“ボク”と言い始めたのは、有名な話です」(エンタメ誌編集者)

 一方、アニメや漫画の界隈では、2010年に“アイドル戦国時代”と呼ばれるブームが到来するはるか前から、“ボクっ娘カルチャー”は定着していた。

 ライター・評論家で、『僕たちのゲーム史』(星海社)などの著書がある、さやわか氏が、そのルーツを解説する。

「今の流れを考えるなら、手塚治虫あたりまで遡るべきでしょう。たとえば宝塚歌劇団を参照した『リボンの騎士』は、男装の麗人というイメージですが、より明確なボクっ娘としては『三つ目がとおる』のヒロインがいます。これらを契機として、アニメやオタク系の作品群で“僕”“俺”“わし”“おいら”などを使う女の子が描かれるようになりました」(さやわか氏=以下同)

 80年代に入ると、『週刊少年ジャンプ』(集英社)などの少年誌を読む女性ファンが増えていく。やがてそこからボーイズラブ(BL)や“やおい”などの同人誌文化が花開き、“腐女子”と呼ばれるような二次元愛好家の一部は日常生活でも“僕”を使うようになった。男性キャラクターに強く感情移入するがゆえである。

「ただ、90年代末や00年代前後のボクっ娘は、あくまでも男性向けコンテンツに出てくるキャラクター付けの記号になったんです。ショートカットの肌が浅黒いスポーツ少女で、本当は女の子っぽくしたいけれど強がっているようなイメージですね。『ToHeart』『アイドルマスター』などの作品にもボクっ娘は出てきますし、『ひぐらしのなく頃に』の古手梨花などもそう。語尾や一人称を男っぽく変えることで個性を際立たせていました」

 アニメや漫画の影響下にあった昭和~平成期のボクっ娘に対し、令和世代が“僕”を使うのはインターネットやSNSの台頭が背景にある──。さやわか氏は、そのように解説を続ける。

「今の若い世代は、LINE、TikTok、Discordなどのネット上で自分について発信する場面が非常に多い。そのとき、“私”という一人称は堅苦しくてかしこまった印象を与えてしまうんです。なにしろ最近の子たちは、文章の最後に“。”を打つかどうかで生じるニュアンスの違いにも敏感に反応しますから。男性には“僕”という便利な言葉があるのに、女性が“私”しか選べないのは窮屈すぎる。だから、よりフランクで使いやすい“ボク”が定着していったんです。これは別に、女性らしさを拒否しているわけではないんですよ」