■一定数ある「偽造のリスク」

 では、実際にデジタル遺言はどのように運用されるのか。前出の古藤氏が話す。

「令和8年1月20日付のデジタル遺言の要綱案によると、自筆証書遺言は、まず遺言者がPCなどで作成した遺言に電子署名などを行い、その内容を遺言保管の担当者に口述し、その後、遺言書を保管してもらうことで遺言を残すことができます。また、公正証書遺言や秘密証書遺言のような証人も不要。遺言書が遺言者によって作成されたことを担保しながら、従来よりも手軽に遺言書を残せるようになります」

 紙の遺言書であれば、劣化や文字が読めないなど、遺言書の解読が困難になるケースもあるが、デジタル遺言なら、そうした問題も解決できる。また、現行制度では、相続の際、遺言書を勝手に開けてはいけないという。

「遺言書保管制度を利用していない自筆証書遺言や秘密証書遺言は、相続開始後、遺言開封前に家庭裁判所に出向いて遺言書を確認(検認)してもらわなければなりません。ですが、デジタル遺言導入によって、これも不要になる見通しです」(前同)

 デジタル遺言の導入によって遺言書を作ることへのハードルが下がり、遺言書を作成する人が増えれば相続トラブルは減るはずだ。遺言制度の救世主にも思えるデジタル遺言だが、当然懸念点もある。

「これまでは、筆跡によって本人が書いたものかどうかを判別してきました。データで残すとなると、データそのものは誰が作成したのか見分けがつきません。担当者への口述など、偽造対策が講じられる予定ですが、偽造のリスクは一定数あります」(同)

 遺言書の現物がなくなるからこそのデメリットもある。

「デジタル遺言はPCやスマホ内に保存されるため、相続の際にデータを発見できず、遺言書の有無を確認できない可能性があります。そのため、保管方法についても制度化が進められています」(同)

 あと2年ほどで始まるデジタル遺言。はたして、今後遺言の主流の形となるのだろうか。

「遺言書を作成する方の多くが高齢者であることを考えると、直ちにデジタル遺言が普及するとは考えづらいかもしれません。ただ、遺言方法の多様化が進んで遺言を残す人が増えれば、相続にまつわる紛争を抑制することにはつながるはずです」(同)

 ちゃんと伝えておけばよかった──遺言は、家族に向けた最後の言葉だ。デジタル遺言は、伝えられなかった後悔を減らす新たな手段となる。

古藤由佳
弁護士(弁護士法人・響)
「難しい法律の世界をやさしく、わかりやすく」をモットーに、相続や借金・交通事故・労働問題・離婚・消費者トラブルなど、民事事件から刑事事件まで幅広く多数手掛ける。
FM NACK5『島田秀平と古藤由佳のこんな法律知っ手相』にレギュラー出演するほか、ニュース・情報番組などテレビ・新聞・雑誌等メディア出演も多数。

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