■ビジネスは、まだ市場に出ていないことを始めるのが一番理想的
同様に調味料の味の素、日用品の花王、印刷のTOPPANホールディングス、時計のセイコーグループなども“隠れ半導体企業”の代表格。AIの普及が加速度的に進む中、半導体銘柄は株式市場で大きな注目を集めている。
「結局、大事なのは自社が持っている技術をどのように流用するかという発想なんですよ。たとえばヒートテックなどで知られる東レは炭素繊維を扱う会社ですが、その技術を航空機に応用した。飛行機の翼というのは内側に炭素繊維の布を貼ってあるんですね。今では、ほぼ世界シェアトップです」
このほかにも“世間の認知”と“収益の源泉”にズレがある企業は枚挙にいとまがない。
・HOYA【メガネのレンズ→最先端チップの門番】
・ダイキン工業【空調機→半導体用フッ素化学】
・ブラザー工業【ミシン→スマホ・EVの生みの親】
・NEC【パソコン→ITシステム構築、通信インフラ】
・住友電気工業【電柱の線→ EVの神経系】
などなど……。
「新ジャンルへの挑戦というのは、研究開発費に加えて人的リソースも割かなくてはいけない。だから国の補助金が出る分野か、余裕がある大企業じゃないと難しい面があるんです。変わったところだと、自動車のトヨタは10年くらい蝶の研究者を抱えていた時期がありました。これはどういうことかというと、モルフォ蝶というブラジルの青くてきれいな蝶がいて、光の反射によって7色に光る。これを塗装に使えないかと研究していたんですよ」
楽器とバイクという、一見すると関連がまったくなさそうなジャンルで存在感を示すのがヤマハ。1887年に国産オルガンの製作に成功したことからスタートした同社は、1921年に帝国陸軍の要請によって軍用航空機のプロペラ製造を始めることに。その後も楽器の製造は続けていたが、終戦後、使われずにいたプロペラ製造用の工作機械を活用することを考えた結果、1954年からバイク分野に進出することとなる。
「ビジネスというのは、まだ市場に出ていないことを始めるのが一番理想的なんです。ところがソニーのウォークマンやAmazonの宅配サービスも、最初は“そんなの成功するはずない。前例がないんだから”と否定されていた。時代が変われば世の中の構造も変わっていくわけで、これからはますます柔軟な発想を持った企業が生き残っていくことになると思います」
“餅は餅屋”の常識を覆し、技術の種を意外な場所で咲かせる──。そんなバイタリティあふれる企業こそが、明日の日本経済を牽引していくのかもしれない。
川口友万(かわぐち・ともかず)
サイエンス・ライター。1966年、福岡県生まれ。富山大学理学部物理学科卒業後、毎日コミュニケーションズに入社。パソコン誌編集者を経てフリーとなる。「サイエンスにもっと笑いを!」をモットーに掲げ、ラーメンから都市伝説までなんでも科学で読み解くことを得意とする。著作に『ホントにすごい!日本の科学技術』(双葉社)、『ラーメンを科学する』(カンゼン)、『あぶない科学実験』(彩図社)など。