■地震学の定説を覆してしまった東日本大震災
1854年に発生した安政東海地震(推定M8.4)を最後に、170年以上経った現在まで想定震源域で新たな大地震は起きていない。だが、この現状について山村氏は、地球の時間感覚で見れば100年や150年は誤差の範囲でしかないという。
「地球は何億年単位で動いているのに、人間は100年単位で物事を考える。分かっているデータもせいぜい1000年〜1200年ぐらいの記録しかありません。しかも、その中には怪しいものもある。こうした状況下で考えざるを得ない難しさはあります」
そして、2011年3月11日──。地震学の定説を覆す大地震が起きてしまう。
「日本海溝に沈み込んでくる太平洋プレートは、数億年前に作られた古いプレートです。この地域には、それほど大きなエネルギーは蓄積されていないだろう。マグニチュード9クラスの地震は起きないだろう。それが、日本地震学会の定説になっていました。しかし、実際にマグニチュード9.0の東日本大震災が起きてしまった。完全に学会の定説が覆ってしまったんです」(前同)
東日本大震災から約半年後の2011年10月、地震学者2000人以上が参加する日本地震学会は、異例の見解を表明する。従来の地震発生の考え方はリセットするべきだという、いわば“敗北宣言”を出したのだ。
「東北でマグニチュード9の地震が起きたなら、西側でも同じことが起きるかもしれない。当然、東海地震に関する認識も変化しました。それまで南海トラフ周辺で想定された最大マグニチュードは8.5でした。そこで、“南海トラフ巨大地震”という形を取り、マグニチュード9を想定するようになったんです。その中には東海地震の他に、東南海地震、南海地震も含まれています。そのため、次第に東海地震の存在感は薄くなっていきました」(同)
さらに月日が流れた2017年10月30日。東海地震の事前予知を目的とした定例判定会が、約40年の歴史に幕を下ろす。この日を境に、メディアから東海地震という言葉が消えたのだ。
「とはいえ、東海地震エリアの危険度の高さに変わりはありません。現在もフィリピン海プレートが毎年数センチずつ沈み込み、岩盤が変形し続けています。蓄積されたストレスを放出するため、どこかで地震が起きる可能性は高いでしょう。さらには、富士山の噴火を誘発する可能性だってあるかもしれません。南海トラフ巨大地震に呼称が変化した現在も、警戒が必要です」(同)
2025年だけでも4000回の地震が起きたという、地震大国日本。東海地方の人はもちろんのこと、全国民が他人事ではいられないのかもしれない──。
山村武彦(やまむら・たけひこ)
防災システム研究所所長、防災・危機管理アドバイザー。東京都出身。1964年の新潟地震での災害ボランティア活動を契機に、防災・危機管理のシンクタンク「防災システム研究所」を設立。以来60年以上にわたり、国内外で発生する災害の現場調査を行っている。また、企業や自治体の社外顧問やアドバイザーを歴任。主に報道番組での解説や日本各地での講演、執筆活動などを通じて防災意識の啓発に取り組む。著書に『災害に強いまちづくりは互近助の力』、『南三陸町 屋上の円陣』(ぎょうせい)など多数。