​“改悪”だけでは語れない、ANAが抱える事情

 見直しが表明されたことでひとまず安堵する声もある。しかし、一度失われた信頼は簡単には戻らない。

 そもそも、なぜこれほど利用者の反発が予想できる制度変更を打ち出したのか。

 旅行ジャーナリストのシカマアキ氏は、その最大の理由を「ラウンジの混雑緩和」だと指摘する。

 「今回のSFC制度見直しの最大の目的は、ANAラウンジおよび提携ラウンジの利用者数を減らすことだと思います。もちろん燃油費や人件費の高騰、LCCとの競争激化など、航空会社を取り巻く経営環境は厳しいですが、それが直接の理由というより、増えすぎたSFC会員らによるラウンジ混雑への対応が優先されたのでしょう」

 ただ、利用者からすれば納得できる話ではない。混雑が問題であれば、本来はラウンジ増設や利用条件の見直しなど、既存会員の信頼を損なわない選択肢もあったのではないかという疑問も残る。

 では、今回の見直しはどのような形で落ち着くのか。

 シカマ氏は「年間300万円という決済条件を大きく引き下げる可能性は高くない」と見る。

 「一方で、300万円に加えて年間の搭乗実績も条件に加えるなど、『飛行機に乗る人』も評価する制度になる可能性はあります。JALのJGCでも搭乗実績を重視した基準を設けた時期が過去にありました。航空会社である以上、『搭乗』を評価軸に戻すほうが利用者の理解は得やすいでしょう」

 さらに、こうした制度見直しはANAだけの特殊な動きではないという。

 「JALも2024年にJGC制度を見直していますし、海外でもデルタ航空は飛行距離ではなく航空券への支出額を重視する制度へ変更しています。ユナイテッド航空やアメリカン航空も利用回数だけでなく支出額を評価基準に取り入れており、収益性の高い顧客を重視する流れは海外でもみられます」(シカマ氏)

 もっとも、JALは既存会員の権益を維持したため、大きな反発にはつながらなかった。

 一方、ANAは既存SFC会員にも影響が及ぶ内容だったことから、「努力して得た資格が変わってしまう」という不満が一気に噴出した。

 9月末までに示される新たな制度では、利用者の理解を得る、混雑を緩和する、という課題をどう両立させるのか。長年、「一度取得すれば一生モノ」として支持を集めてきたSFC。その価値を守るのか、それとも経営合理化を優先するのか。9月末に示される新制度は、ANAが利用者との信頼関係を修復できるかどうかを占う試金石になりそうだ。

シカマアキ
ジャーナリスト フォトグラファー
大阪市出身。大学卒業後、読売新聞の記者として約7年、その後フリーで雑誌やWebなど向けに取材、執筆、撮影などを日本そして海外で行う。主なジャンルは、旅行、飛行機・空港、ホテルなど。