​■「ANALCC化」は本当なのか 旅行ジャーナリストが語る“世界の常識”

 実際、利用者が違和感を覚えているのは「座席指定が有料になること」そのものではない。長年、 「ANAなら安心して利用できる」というブランドイメージが、少しずつ変わろうとしていることへの戸惑いだ。「ANAもLCCのようになってしまった」と受け止める利用者も少なくない。

 しかし、旅行ジャーナリストのシカマアキ氏は「世界基準で見ると、今回の運賃体系は決して珍しいものではない」と話す。

 「欧米では最安運賃になると、事前座席指定や受託手荷物が有料、キャンセル時の払い戻し不可といった運賃体系がすでに一般的です。今回のANAの新運賃も、その流れに沿ったものと言えるでしょう」(シカマ氏)

 一方で、シカマ氏は「運賃体系だけを見て“ANAがLCC化した”と考えるのは早計だ」とも指摘する。

 「レガシーキャリアには、LCCにはない価値があります。ラウンジや優先搭乗などの上級会員サービスに加え、機内サービスや乗り継ぎ時のスルーバゲージなど、フルサービスキャリアならではの強みは依然として残っています」(シカマ氏)

 では、今回もっとも影響を受けるのは誰なのか。

 シカマ氏は、小さな子どもを連れた家族旅行こそ配慮が必要だと話す。

 「たとえばJAL系LCCの『ZIPAIR』では、6歳以下の子どもと同伴者1人は無料で隣席を指定できます。アメリカでも12~13歳以下の子どもは家族と隣席になるよう航空会社へ義務付ける制度があります。小さな子どもと親が離れて座ることは、座席トラブルや出発遅延にもつながりかねません。子育て世帯への一定の配慮は必要だと思います」

 つまり、海外でも「家族が隣に座れること」は、安全面も含めて特別なサービスではなく、最低限の配慮として扱われているケースが少なくないということだ。

 ANAは株主総会で、シンプル運賃でも有料で事前座席指定などの付帯サービスを利用できる仕組みの導入を検討していることを明らかにしているおり、シカマ氏も、「利用者にとっても航空会社にとっても、その形が最も現実的ではないか」と見る。

 「LCCのように事前座席指定を有料オプションにするのが、一番分かりやすい落としどころでしょう。利用者も選択しやすく、航空会社側も案内がシンプルになります」(シカマ氏)

 もっとも、日本で今回のような制度がすぐに広がるとは考えにくいという。

 「海外では一般的な運賃体系ですが、日本では『LCC以外はフルサービス』というイメージが根強くあります。JALやスカイマークなどがすぐ追随する可能性は高くないでしょう。ただ、長い目で見れば、世界の流れに近づいていく可能性はあると思います」(シカマ氏)

 日本ではまだ戸惑いの声が根強い今回の新運賃制度。世界ではすでに一般化しているサービス設計でもある。しかし「世界標準だから正しい」だけでいいのか。

 ニーズに応えるか、それとも「ANAだから選ぶ」というブランド価値を守るのか――。ANAは今、岐路に立たされている。

シカマアキ
ジャーナリスト フォトグラファー
大阪市出身。大学卒業後、読売新聞の記者として約7年、その後フリーで雑誌やWebなど向けに取材、執筆、撮影などを日本そして海外で行う。主なジャンルは、旅行、飛行機・空港、ホテルなど。