■安易なIT化の流れに“便利さ”の形骸化との声も
“QR注文”に限らず、“タブレット注文”、“ロボット配膳”……。今や飲食店の“ホール業務”は機械化が刻一刻と進んでいる。しかし不思議なのが、なぜか現場の“ミス”はなくなっていないということではないだろうか。
「注文はデジタルでも、厨房で調理をするのは人間ですから。作り間違えは発生します。あとは配膳する側も誰が何を頼んだか把握していないから、間違って同行者の注文したものが提供されたり、お客が隣の人の商品を取ってしまったり、なんてこともある。結局、店側の負担が軽くなっても、お客には新しい手間ができたと思うんです」
“便利さ”が形骸化しているとも見えるIT化の流れ。しかし、外食産業の人材不足という日本の状況を鑑みると、致し方ない話かもしれない。
「一昔前の飲食店では、外国人従業員の雇用について否定的な意見も多かった。しかし、今では真逆です。外国人側も言葉が流暢になりましたし、業務に慣れて意欲的な人も少なくない。対して日本人は少子高齢化の影響もあってか、腰を据えて働く人材が減り、 “スキマバイト”で働く人が増えたためか、接客の質も下がっています」
象徴的なのは、今年の4月13日に中華チェーン『日高屋』などを展開する株式会社ハイデイ日高の社長・青野敬成氏が『ワールドビジネスサテライト』(テレビ東京系)にて、店員の人材採用を「今までは4割くらいは外国人でやろうと考えていたところが、今年はもう手の打ちようがない」という発言したことだ。一部でこの発言が日本人労働者を軽視していると非難され、その誤解を与える発言に対して公式Xアカウントに謝罪文が投稿されたが、それだけ日本の人材難は深刻なものだということの表れでもある。
「一時は、“外国人は時間にルーズだからオープンも時間通りにいかない”と言われたこともありましたが。今や、責任感のない日本人バイトが運営する店で同じことが発生していますよ」
そう考えると、人材の数と質が保証できない今、機械化とお客側の負担はある程度受け入れないといけないのだろう。
「1000円前後の価格でそこそこのクオリティの料理が食べられるのですから、どこかしらは妥協しないといけません。なぜ“IT化”が進んでしまったのか、我々も考えるべき時代が来たのでしょう」
最後に木村氏が考える“誰でも使いやすい”注文とは何かを訪ねたところ、意外にも身近なシステムだった。
「一番効率的だなと思うのは、立ち食い蕎麦屋のような“券売機”ですよ。オヤジでも慣れているし、商品を受け取って席に着くまで全てセルフですから、間違いもありません」
結局はアナログでシンプルな操作が店側と客側にとってウィン―ウィンなのかもしれない。真の“便利”を求める飲食業界の試みは続きそうだ。
木村和久(きむら・かずひさ)
1959年、宮城県生まれ。作家、漫画原作者、コラムニスト、キャバクラ評論家。日本文藝家協会会員。明治学院大学卒業後フリー。主な著作は『平成ノ歩キ方』『キムラ総研』『キャバクラの歩き方』等。ニューシニア世代の急先鋒。