「本場はソフトシェル」タコスナビゲーターが語る、日本で起きている"本物志向"

 話を聞いたのは、「タコスナビゲーター」として全国のタコス店を紹介し、自身も東京・花小金井で「Tacos Mercado.」を営む吉川孝一郎さんだ。

 吉川さんは、まず日本人が抱く「タコス」のイメージそのものが変わってきていると話す。

 「そもそもタコスには大きく分けて2種類あります。日本で長く親しまれてきたパリパリのハードシェルは、アメリカ・テキサスで発展した『TEX-MEX(テクス・メクス)』のスタイル。一方、本場メキシコで日常的に食べられているのは、トウモロコシから作る柔らかいコーントルティーヤを使ったソフトシェルです」

 そして、現在のタコスブームをけん引しているのも、このメキシコ流のソフトシェルだという。

 「ここ6〜7年で、日本でも本場と同じように質の高いトルティーヤを提供するお店が一気に増えました。輸入されるマサ粉(トウモロコシ粉)の品質が向上したことに加え、YouTubeなどを通じて本場の技術を学べるようになったことで、お店全体のレベルが格段に上がっています」

 さらに吉川さんは、2025〜2026年にかけてブームが一段階加速したと感じているという。

 「もともとネットフリックスでも『タコスのすべて』ドキュメンタリーシリーズが放映されるなど、世界的にタコスへの関心の高まりは募っていました。そういう種まきがあり、昨年あたりからSNSで話題になる専門店が次々と現れたことが大きいですね。あとは家庭でもマサ粉やメキシコの乾燥唐辛子が手軽に手に入るようになりました。これによって以前より"タコスを食べる・作る"ハードルがかなり下がっていると感じられます」

 近年はサブウェイやモスバーガーなど大手チェーンもタコスをイメージした商品を展開しているが、この流れについても歓迎している。

 「もちろん、トルティーヤで包んでいないものは厳密にはタコスじゃないので、タコスを語るならせめてトルティーヤに包んで欲しいという気持ちは正直あります(笑)。ただ、『タコス味』を入り口に興味を持った人が専門店へ足を運び、『本物のタコスってこんなにおいしいんだ』と感じてもらえれば、業界全体にとっては追い風になりますし、やはり大手に注目されるのは嬉しいですね」

 日本のタコスにはまだまだ“伸び代”があるという。吉川さんは、タコスの"自由さ"から生まれる日本定番メニューの発掘に期待を寄せている。

 「メキシコではタコスは、おにぎりやお寿司、あるいは中国の餃子のような日常食です。トルティーヤで包めば何でもタコスになる。だから日本でも、しめ鯖や天ぷら、だし巻き卵、ローストビーフにエビチリなど、さまざまな食材を使った独自のタコスが生まれています」

 しかしながら“明太子パスタ”のように誰もが知る"日本生まれの定番タコス"はまだ存在しないという。

 「そんなアイコニックなメニューが誕生したとき、タコスは本当の意味で日本の食文化として根付く瞬間ではないか、と思っています」

 また一方で、国産トウモロコシを使い、自家製トルティーヤを作る専門店は増えてきたともいう。

 「国産トウモロコシの粒から自社でトルティーヤを作るお店も増えてきており、規模はまだ小さいながらも、日本の食の自給化や地域農業への寄与という面でも、新しい進化を遂げていると感じます」

 ではこのブームの行く末は、いったいどうなるのか。

 ずばり吉川さんに聞いたところ、一時的なブームでは終わらないと断言する。

 「私は一過性のブームに終わらず、日本の食文化として確実に定番化していくと確信しています。おそらくあと数年は現在のブームのような状態が続き、大手外食チェーンの本格参入なども増えていくはずです。そのブームが一巡した先には、現在のピザと同じくらい、日本の食卓や外食の選択肢として当たり前にある立ち位置まで定着していくのではないかと思っています」

 "明太子パスタ"のような、日本独自の定番タコスはまだ生まれていない。だからこそ、いま日本で起きているタコスブームは、完成形ではなく、食文化が育っていく過程そのものなのかもしれない。

吉川孝一郎
タコスナビゲーター・トルティーヤ研究家。
東京・小平市の「Tacos Mercado」を拠点に、本場の製法にこだわったタコス作りに取り組む。またテレビ、ラジオなど各種メディアにも出演し、日本のタコス文化の普及にも努める。