■人間を恐れなくなった個体が増加
日本のクマの出没増加の背景として「個体数の回復」や「人間との生活圏の接近」が指摘されているが、これもアフリカではまったく同じ状況となっていると、前出の岩井氏は言う。
「“野生動物の保護政策による頭数増加”、“狩猟が原則禁止されたことによる人馴れ”、“人口増加による農地の拡大”が、ゾウ被害増加の原因でしょう。実際、タンザニアのセレンゲティ県では、1990年代にはほとんどゾウを見かけることはなかったのですが、2010年代には連日ゾウが村に来るようになっています」
この20年で頭数が急増し、なおかつ人間を恐れなくなった個体が増えたというのか。実際、1989年にワシントン条約により象牙の国際取引が原則禁止。その後、アジアゾウやアフリカゾウは“保護生物”として扱われるようになり、駆除することのハードルが高くなっているというのだ。
「観光業に力を入れているタンザニアの場合、保護政策や愛護団体が強く、“殺人ゾウ”であっても、そのほとんどを駆除せずに保護区内に戻してしまう。人間ができるのは、人里に入り込まないよう、畑の周りに“電気柵”を巡らせるなどの防御に徹する方法ばかりが実情です」
とはいえ、この電気柵も草が伸びれば機能に支障はでるし、メンテナンスにも費用がかかるなど万全な対策とは言えない。さらに、ゾウは低周波音を出して遠くの個体とも意思疎通がとれるため、人間が出し抜かれるのもザラだ。
「村人が自由に出入りできない保護区の中から、見張りの人間が畑にいないか覗いていたり、夜のうちに電気柵に近寄って状態を確認したり……。とにかく知能も高く、現地も困り果てています」
日本でもしばしば見られる「クマを駆除するのはかわいそう、元いた山に帰そう」という動き。タンザニアの獣害問題を知る岩井氏にとっては、リスクの高さを強く感じると締めくくった。
「日本の獣害対策は、駆除を行う“個体群管理”、畑を防御する“侵入防止”、エサになり得るものや隠れ家を取り去る“環境管理”と、どれも欠けてはならないサイクルで運営しています。一方、個体数管理を充分に行えていない国では、農作物被害や人身被害が如実。野生動物との“共存”のためには、“距離を取った棲み分け”が必要であり、ある程度の数の統制が大事だと思いますね」
日本のクマと海外のゾウ。動物や国は違えども、人間と動物の距離が近くなったことによる課題としては共通している。今後は、各国が動物との関わり方を見直す必要が出てきているようだ。
岩井雪乃(いわい・ゆきの)
人間・環境学博士。NPO法人アフリック・アフリカ理事。タンザニアでアフリカゾウ獣害問題(アフリカゾウによる農作物被害問題)の対策活動に取り組む。著書に『ぼくの村がゾウに襲われるわけ。』(合同出版)など。