うどんといえば、讃岐うどん……という先入観を持つ人も多いかもしれないが、日本全国には“ご当地うどん”といわれる郷土料理が数多ある。その勢いは、“香川一強”を崩さんばかり。まさに戦国時代に突入しているのだ。今回はそのいくつかを紹介しよう。(前後編の前編)

 讃岐うどんといえば、コシのある麺をセルフ形式で、安く、早く、うまい。全国チェーンの普及もあり、「うどん=讃岐」という印象は強いだろう。だが近年、その一強ムードに変化が起きている。外食事情に詳しいジャーナリストが話す。

「2025年、“福岡うどん”が東京に相次いで上陸しました。北九州発の『資さんうどん』が両国に東京1号店を開業し、続いて足立鹿浜店を出しています。さらに、博多の老舗『因幡うどん』も原宿に県外初出店しています」

 さらに、“うどん県”こと香川県に対抗する新勢力が関東からも現れた。

「埼玉県は県内各地に多様なうどん文化があり、うどんの年間生産量は香川県に次ぐ2位。“うどん共和国”を掲げ、うどん県の背中を追っています」(前同)

 讃岐うどん一強時代、うどんの評価軸は「麺にコシがあるかどうか」に偏っていた。しかし、全国各地のうどんに注目が集まる今、うどんは、コシだけでは語れない。

「うどん文化は、讃岐のように地域名で一括りにされがちですが、実際には同じ県内でも、麺の太さ・硬さ・だし・食べ方・具材などに違いがあります。その違いは、土地の歴史や暮らし、産業、食材の流通などと関係しているのではないでしょうか」

 こう話すのは、登録者8万人超えのYouTubeチャンネル『埼玉うどん子TV』を運営し、『誇るべき埼玉うどん26の物語』(双葉社)の著者でもある武正倫氏だ。

 武正氏の出身地、埼玉県では、かつて農村部で小麦を作り、家庭でうどんを打って食べる文化が根づいていたという。米は貴重で売れば現金になる作物だったため、自分たちの食事には身近な小麦を活用したのだ。

「農作業の合間に食べるので、腹持ちのよさも大切でした。そのため麺は太くて力強く、噛みしめて食べられるものになっていったのではないかと思います。うどんの麺は、小麦粉と水と塩からできています。加水率をやや低めにし、塩をしっかり含ませることで、農作業中の塩分補給も兼ねていたと考えられます」(前同)

 このように、冷水で締めた力強い麺を温かい肉汁につけて食べるスタイルは、「武蔵野うどん」として広く知られ、県内では「田舎うどん」の名でも親しまれている。だが同じ埼玉でも、北東部の加須市には、まったく異なる表情のうどんが根づいている。

「県内では、昔から家庭で食べられてきた手打ちうどんが多く、地粉を使った少し黒みがかった麺がよく見られます。一方、“手打うどんのまち”として知られる加須市のうどんは、白く美しい麺と、つるりとしたのど越しのよさが特徴です」(同)

 こうした違いの表れは、土地ごとにおける役割の違いによるものだという。

「加須市には總願寺というお寺があり、古くから参拝客に向けて手打ちうどんが振る舞われてきました。加須うどんは、参拝客を迎えるための食文化。つまり、商売としてのうどんという側面を強く持っています」(同)

 農村部発祥の武蔵野うどんが、自分たちで食べるために育まれた「暮らしのうどん」だとすれば、加須うどんは、客に振る舞い、商いの中で磨かれてきたうどんということだ。