■福岡うどんのやわらかさは、だしと一体になるため

 うどん文化を一つに括れないのは、福岡県も同様だ。福岡うどんの特徴は、何といってもやわらかい麺である。讃岐うどんを食べ慣れた人からすれば、“コシがない”と感じるだろう。ただそれは、福岡うどんを見誤っている。

「福岡のうどんは、讃岐うどんのように麺のコシを前面に出すというより、やわらかい麺でだしを受け止め、麺とつゆが一体になるところに大きな魅力があります。また、ごぼう天うどんや丸天うどんのように、具材の文化が豊かな点も特徴的です」(同)

 つまり、福岡うどんのやわらかさは、だしと一体になるための形なのだ。また、福岡うどんには「博多うどん」と「筑後うどん」の二大勢力がある。

「博多うどんは、やわらかい麺とだし、ごぼう天や丸天といった具材の組み合わせが印象的ですが、筑後地方には“筑後うどん”と呼ばれる、さらに生活に根づいたうどん文化があります。筑後うどんは、長く茹でた麺をだしに浸して味を含ませるような食べ方があり、家庭の味として親しまれてきた側面が強いようです。筑後地方は、農業地帯でありながら炭鉱の町でもありました。肉体労働を支える食事として、消化がよく腹持ちがいいもの。なおかつ、子どもから高齢者まで食べやすいうどんが求められてきたのではないかと思います」(同)

 福岡うどんの興味深い点は、ローカルチェーンが地域のうどん文化に深く根づいている点だ。福岡には、博多の『ウエスト』、北九州の『資さんうどん』、糸島の『牧のうどん』、天神の『因幡うどん』などのうどんチェーンがある。しかし、福岡県民の間では「地元のチェーンが一番」という強いこだわりがあり、育った地域によって行く店が異なるそうだ。

「実際、私も福岡でウエスト、資さんうどん、因幡うどんを食べましたが、うどんの雰囲気もだしの味わいもかなり違うように感じました。麺、だし、具材、そしてローカルうどんチェーンの定着まで含めて、福岡うどんには、暮らしに寄り添う食文化としての奥深さを強く感じます」(同)

 福岡うどんは、麺とだしが融合することで発展してきた。そこに、麺のコシはないかもしれない。ただ、地元に根づいたうどん文化は讃岐並み──いや、それ以上に粘り強いかもしれない。《【後編】はこちらから》

武正倫(たけまさ・りん)
埼玉県加須市出身。元教員の経験を活かした軽快で分かりやすい語り口で、埼玉各地のうどん店や地域に根づくうどん文化を紹介するYouTubeチャンネル『埼玉うどん子TV』を運営。加須市観光大使も務める。著書に『誇るべき埼玉うどん26の物語』(双葉社)がある。
『埼玉うどん子TV』https://www.youtube.com/@saitamaudonkoTV