日本中どこにいっても見かける鳥、「ハト」。そんなハトに関して、今年の5月末にアメリカの学術雑誌『サイエンス』で、ハトが肝臓にある特殊な免疫細胞を使って地球の磁場を感知し、“体内コンパス”として機能させている可能性があるという論文が発表された。

「遠く離れた場所からでも巣まで正確に帰れる“帰巣本能”の習性を持つハトですが、このコンパスを頼りに、迷うことなくたどり着いているのかもしれません」(科学ジャーナリスト)

 見知らぬ場所から家路にちゃんと着ける。なんとも羨ましい能力だが、よくよく考えてみると我々人間にも“帰巣本能”を体感する瞬間があるような気もする。

 この夏の時期、納涼会やビアガーデンを楽しむ人も多いことだろう。その中で「深酒をしたはずが、気がついたら家の布団に倒れ込んでいた」──そんな経験した読者もいるのではないだろうか。

 はたして人間、そして動物の帰巣本能は本当に存在するのだろうか。『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)監修者で動物学者の今泉忠明氏に話を聞いてみた。

「帰巣本能の仕組みや、それを司る体の部位は、まだまだ解明途中。ただ、動物によっていろいろな“説”が存在します。今回は、その“説”についてご紹介できたらと思います」

 帰巣本能の仕組みには、さまざまなものが考えられる。冒頭で紹介したハトの場合、論文に掲載された“磁力”に加えて“体内時計”が大きく関係している説があると、今泉氏は言う。

「今回の論文に出たハトは“伝書バト”という種ですが、その中にはおよそ1000キロを1日で帰って来られる個体もいます。見知らぬ場所で放たれても、ほぼ迷いません。その仮説としては、“体内時計”を使って太陽の場所から自分の今の位置を計算し、曇りの日は“磁力”を方位磁針のように使って帰る方角を定めているといいます。過去には、“ハトの頭に小さな磁石をくっつけると、曇っている日には全然違った方向へ飛んでいってしまった”といったデータもあるんですよ」

 また、近年では視覚で家の方向を見定めているという説もあるのだそう。

「ヨーロッパの研究では、“景色を見て方向を定めている”という可能性も示唆されています。ハトは放すと真上に飛ぶ習性があるのですが、その時に周りの地形などを覚えているかもしれないというんです」

 実際に、GPSを付けてハトを飛ばした実験では、高速道路の道に沿って飛んでいたというデータもあるのだという。

「ハトの目は名画と贋作を見分けられるほど優秀な目を持っているという話や、紫外線が見えているのではという話もあるんです。なかなか高機能なんですよ」

 海の世界でも“帰巣本能”を持つ動物がいる。

「産卵のために海から自分の生まれた川に帰るサケもそう。北アメリカに生息するサケの仲間の“ベニマス”では、自分の川を正確に回帰、記憶していることが確認されていますが、これは生まれた川の水の匂いを覚えているからだといいます。また、海鳥は海の匂いで“地図”を作るなんていう興味深い説もあるんですよ」