子供たちがスマホやタブレットで目にするのは、ほのぼのとした動画ばかりではない。過激なアダルト動画、パパ活への勧誘、性的な画像を要求する大人たち──。性に関する情報が指先ひとつで流れ込む時代となったことで、適切な“性教育”の必要性が改めて叫ばれるようになってきた。
「朝日新聞社が全国の保護者を対象に行ったアンケートでは、回答者の9割近くが“学校にもっと性教育に取り組んでほしい”と答えています。今の子供たちは常に性暴力や性犯罪のリスクと隣り合わせ。ところが、日本の性教育は5歳から教える欧州の先進地域と比べて“周回遅れ”とも揶揄されているんです」(教育関係者)
日本では家庭内で性の話題をタブー視する風潮が昔から存在する。それゆえ、できることなら学校できちんと指導してほしいというのが保護者たちの本音だろう。教育インフルエンサーである「静岡の元教師すぎやま」氏(以下、すぎやま氏)は次のように解説する。
「もちろん、可能であれば家庭でも性について教えたほうがいいとは思いますよ。たとえば“どうやって子供は産まれるの?”と子供に聞かれたときは、いいチャンスでしょう。でも算数の問題だって、自分で解けるのと子供にわかりやすく解説するのは別物じゃないですか。すごくデリケートで難しいテーマだからこそ、最終的には学校の役割になっていくと思うんです」(すぎやま氏=以下同)
正しく性教育を進めれば、性犯罪率や望まない妊娠が減るというエビデンスも存在するが、それにもかかわらず、日本で性教育が遅れたままなのはなぜなのか? これに関しては“意外なところ”に理由があるのだという。
「実は背景には政治的な対立があるんです。学習指導要領の内容を決めるのは文部科学省で、最終的には文部科学大臣が決める。その中で“どんな内容を、どこまで踏み込んで書くのか?”という議論が出てくるわけですね」
問題はここからだ。戦後、政権を担ってきたのは主に自民党なので、どうしても学習指導要領の議論も保守的な考え方の層に配慮せざるを得ない傾向があるという。
「自民党の支持層の中には、宗教的・家庭的な観点から性教育に反対する人たちが一定数います。彼らの根底にあるのは“伝統的な家族観以外を認めるべきではない”という考え方。LGBTQなども認められないという立ち位置です」
さらに事態を複雑化させているのは、こうした“性教育に消極的な勢力”がいる一方で、「もっと踏み込んで学校で性について教えるべきだ」と正反対の主張をする勢力も存在することだ。
「象徴的なのが2003年に起きた都立七生養護学校の性教育をめぐる事件。一部の教師が人形を使って性交させるなど、“行き過ぎた性教育”を進めたんですね。このときは保守系の都議会議員が学校まで乗り込むなど、大きな騒ぎとなりました」
1990年代以降、少しずつ前向きになりかけていた日本の性教育は、この出来事を機に停滞を余儀なくされる。文部科学省の学習指導要領も両者に配慮したような書き方をせざるを得ない状態が続くなど、膠着状態が続いているのだ。
「でも、そんなところで争っている場合なのかっていう疑問は残りますよね。あまりにも問題の本質とズレているような気がします。そして一番困っているのは現場の先生方ですよ。“どうやって教えればいいんだ”ということになりますから」