■世の中には”良いひとり言”と”悪いひとり言”が

 よりタチが悪いのは「疲れた」「腹減った」「面倒くさいな」などの【ボヤキ系】だ。発言内容が建設的でないうえに、周囲の士気も著しく下がるため、ハラスメント性が高いひとり言の代表格といっていい。

「ただ、これは行間を読むことが重要です。たとえば“仕事が大変”とボヤく人がいたとしますよね。その真意は“仕事が大変にもかかわらず、頑張っている俺ってすごい”と自分を鼓舞しているのかもしれない。同様に仕事が終わって家に帰ってくるなり“疲れた”と愚痴る奥様は、“疲れたけど、それに耐えている私を褒めてほしい”という旦那に対する願望が含まれている可能性はあります。じゃないと報酬として成立しないですから。“疲れたから私はダメだ”で終わる話なら、そもそもその言葉を発する理由が見つかりません」

 どうやら世の中には”良いひとり言”と”悪いひとり言”があることがおぼろげながら見えてきた。どうせひとり言を発するなら、周囲に迷惑をかけず、自分を高める方向でいきたいものだ。

「おそらく世の中のひとり言の8割くらいはネガティブな内容だと思うんです。でも、やっぱり“言霊”というのは実際ありますからね。ポジティブなことを口にしたほうがパフォーマンス面も向上するのはたしか。イーロン・マスクは自分に言い聞かせるように“月に行く”と目標を公言しています。目標を立てると、脳はその実現に必要な仕組みや情報を集め始める。つまり与えられた方向へ適応しようとするわけです。逆にネガティブなことを言えば言うほど、脳もネガティブな方向へ適応していきますし」

 ひとり言のプラス面に目を向けると、“高齢者の認知症対策”という要素も無視できない。

「ひとり言を口にすることで、高次機能など普段使っていない脳を使っています。脳が元気であれば、使っていない機能を使いたくなるのは自然なこと。孤独は脳にとっても決していいものではありませんから、ひとり言によってバランスを取っている人もいるでしょう。ですから私は大人にも“助詞強調音読”などの音読を勧めています」

 孤独を避けるという意味では、ネットの普及によって“SNSや掲示板に書き込む”という行為も一般化した。実際、Yahoo!ニュースのコメント欄などは明らかに高齢者と思われる世代の投稿が目立っている。これは文字によるひとり言という側面もあるのかもしれない。

「ただ、文書が炎上するケースも最近は多いじゃないですか。私は投稿する前に一度声に出して読んだほうがいいと思うんです。それこそ、ひとり言的なアプローチですよね。自分が書いた内容を自分の声で聞けば、“ん? 耳で聞いてみると、これは変だな”と気づきますから。ちなみに私は学生の学位論文に指導するとき、何度も声に出して読ませます。自分ではいい文章だと思っていても、音に出すと読みにくい部分や変な聞こえ方をしている部分に気づくことができるんです」

 使い方次第で、ひとり言は脳を活性化させる強力なカンフル剤にもなりえる。まずは自分を高める“ポジティブなフレーズ”を意識してみてはいかがだろうか。

加藤俊徳(かとう・としのり)
株式会社「脳の学校」代表。加藤プラチナクリニック院長。医学博士。新潟県生まれ。現・昭和医科大学医学部、同大大学院を卒業後、1991年に現・国立精神・神経医療研究センターにて脳機能計測「fNIRS法」を発見する。さらにMRI脳機能ネットワーク画像法を開発。95年から2001年まで米国ミネソタ大学放射線科MR研究センターでアルツハイマー病や脳画像の研究に従事。『すごい脳の使い方』(サンマーク出版)など著書・監修書は200冊を超える。