「ホテル代は本当に高騰したのか?」専門家が明かす価格上昇のカラクリと“出張難民”を避ける術
一見すると、「インバウンドによってホテル代が高騰し、出張族が締め出されている」とも映るのだが、本当にビジネスホテルそのものが、そこまで大幅に値上がりしているのだろうか。
ホテル評論家の瀧澤信秋氏に聞くと、現在のホテル価格をめぐる状況は、どうやらそれほど単純ではないようだ。(以下、コメントはすべて瀧澤氏)
瀧澤氏は、まず「世間で言われているほど、ホテルの基本的な料金そのものが大幅に値上がりしているわけではない」と指摘する。
「現在、宿泊料金が非常に高くなったと話題になるケースの多くは、大都市や人気観光都市の中心部など、需要が集中するエリアで起きていることです。もちろん、さまざまな物価が上がっているのと同様、ホテルにも値上げはあります。ただ、いま目立っている価格上昇は、基本料金そのものが一律に大幅値上げされたというより、季節や需要による料金変動の振れ幅が大きくなっている側面が強いと思います」
その「振れ幅」を大きくする要因の一つが、インバウンド需要だ。
現在、多くのホテルが採用しているのが「ダイナミックプライシング」と呼ばれる変動料金制。需要の少ない日は安く、需要が集中する日は高くするなど、予約状況に応じて宿泊料金を変動させ、収益性を高める仕組みだ。
「たとえば外国人旅行者が増加し、ホテル需要が高まれば、当然その日の価格も上がります。ただし、“インバウンド客はお金を持っているから、ホテルが日本人のビジネス客より外国人を優先して高く売っている”と単純に考えるのは違います。外国人旅行者だって、同じ条件なら安いほうがいいわけです」
また、ホテル側も単純に「値上げで儲かった」と嬉々としているわけではないという。
「無論、概して売り上げが上がることは総体的に利益を生むことにつながるし、その幅が大きくなれば経営の安定にも資するのは当然であるが、同時に単純な利益の追求一辺倒に対してアレルギーがあるのもホテル業界の一面だ」と瀧澤氏はいう。
「ホテルによってはインバウンド比率を何%程度にするかなど、それぞれのポリシーを持って運営しています。また、ビジネスホテルをはじめ、ほとんどのホテルが一般的に土地や建物の所有者とホテルの運営会社が異なるケースが多いんです。つまり収益が上がれば、それがすべてホテル運営会社の利益になるわけではない。さらに人件費や清掃費などのコストも上昇していますし、“宿泊料金が上がった=ホテル経営がウハウハ”という単純な構図ではないんです。また、過度な料金変動はレピュテーション(評判)リスクや顧客離れとも相関します」
一方、出張族にとって興味深いのが、ホテルによって料金体系そのものが異なることだ。
たとえば東横インは、需要によって価格を大きく変動させるホテルとは異なり、基本的に定価制を採用している。さらに有料の会員制度があり、会員は一般客より早く予約できるなどの特典も用意されているという。
「繁忙期でも基本的に定価ですから、需要が高い日は当然早く埋まります。出張が多いのであれば、こうした料金体系や会員制度を持つホテルをあらかじめ把握しておくことも重要でしょう」
さらに現在、ホテル業界では別の変化も起きている。
「頻繁に旅行する人ほど、いつも同じ系列のホテルを利用する傾向があります。それは外国人旅行者も同じです。海外で普段から利用しているホテルブランドが日本にもあって、さらに会員特典まで受けられるのであれば、そちらを選ぶのは自然ですよね」
近年は外資系ホテルによる比較的手頃な価格帯のホテルへの参入も進み、インバウンド客をめぐる競争は激しくなっているという。つまり、訪日客が増えれば国内のホテルが際限なく値上げできるわけではなく、ホテル同士では外国人旅行者を取り込むための価格競争も起きているのだ。
では、会社の旅費規定を超えるホテルしか見つからない――そんな“出張難民”になってしまった場合、どうすればいいのか。
瀧澤氏がまず勧めるのは、「泊まる場所を少しずらす」というシンプルな方法だ。
「大都市の中心部にこだわらず、どうしても都心で遅くまで用事ということでなければ郊外への電車で30分程度離れたエリアまで探してみてください。30分程度なら移動のストレスもそれほど大きくありません。郊外のニュータウンには駅前にビジネスホテルがあるケースは多く、それだけで、駅から徒歩1分といった利便性の高いホテルでも、中心部より安く泊まれることがあります」
さらに、選択肢として挙げるのが、意外にも「レジャーホテル」だ。
「世間体を気にしないのであれば、いわゆるラブホテルを活用する方法もあります。最近は業態が多様化し一般ホテルライクな施設も増えていたり、ビジネスホテルに近い宿泊サービスを提供している施設もあったりします。またそういったホテルは定価制を採用しているところが多いため、繁忙期だからといって料金が桁違いに跳ね上がることも比較的少ない。出張先によっては選択肢の一つとして知っておいて損はないと思います」
自腹で差額を払うか、カプセルホテルに逃げ込むか。それだけが答えではない。料金体系や会員制度を知っておく。中心部から少し離れてみる。場合によっては、これまで出張では考えなかった宿泊施設にも目を向ける。
「これからは、状況に応じて臨機応変に対応できるパターンをいくつか持っておくことが大事になってくるのではないでしょうか」
かつてのように「出張なら駅前のビジネスホテルを1万円以内で」という常識が、いつでも通用する時代ではなくなりつつある。だからこそ、ホテル代の高騰を嘆くだけではなく、“どこに、どう泊まるか”という出張する側の選択肢も、アップデートする必要がありそうだ。
ホテル評論家、旅行作家。国内外のホテルを数多く利用し、宿泊者目線からホテルのサービスや料金、業界動向を分析。テレビやラジオ、雑誌、ウェブメディアなど幅広い媒体で、ホテル選びや宿泊事情について解説している。ホテル関連の著書も多数。