日本の街を走れば、当たり前のように見かける軽自動車。しかし、全長や全幅などが細かく定められた「軽自動車」は、日本独自の規格だ。そんな“超ローカル市場”に、中国のEV大手「BYD」が本気で乗り込んできた。

 7月28日に発売された軽EV「RACCO(ラッコ)」は、海外で販売する小型EVを日本仕様にしたモデルではない。日本の軽自動車規格に合わせ、シャシやボディ、駆動・制御システムまで新設計した日本専用車だ。価格は214万5000円からで、背の高いスーパーハイトボディに両側電動スライドドアを備える。

 その姿は、ホンダ「N-BOX」やスズキ「スペーシア」、ダイハツ「タント」といった、日本で人気の軽自動車そのもの。ネット上でも発売直後から注目を集め、Xではスライドドアなど日本で求められる装備や、日本専用設計を評価する声が見られる一方、中国メーカー製であることや、充電環境、販売網などを不安視する反応も上がっている。

 では、なぜBYDは世界でも特殊な日本の「軽」のために、わざわざ専用車を作ったのか。モータージャーナリストの高橋アキラ氏に聞いた。

「最もセンセーショナルと感じたのは、日本でしか販売できない軽自動車規格で作ったことです。歴史的に見ても、海外の自動車メーカーが日本専用のモデルを開発したことはありません。これまでも日本向けに仕様を変更したり、専用グレードを設定したりすることはありましたが、BYDは日本専用車として開発している。これは異例です」

 高橋氏によれば、BYDが軽自動車市場への参入を決断した背景には、日本市場における軽自動車の大きさがある。さらに、商品カテゴリーにも参入の余地があったという。

「日本にも軽EVはありますが、スーパーハイトワゴンのEVにはライバルがいません。BYDはそこをブルーオーシャンだと判断したのでしょう。日産サクラや三菱eKクロスEVは、RACCOより背の低いハイトワゴンなのでカテゴリーが異なります」

 つまりRACCOが狙ったのは、単なる「軽EV」ではない。N-BOXなどが巨大な市場を築いてきたスーパーハイトワゴンに、EVという選択肢がほぼ存在しない――その空白だったのだ。