目標「年間1万台」はクリアできる

 では実際、日本人は国産の人気軽ではなく“あえて”RACCOを選ぶのだろうか。高橋氏は、比較相手になるのはサクラなどの軽EVよりも、N-BOX、タント、スペーシアといったガソリン車のスーパーハイトワゴンだと見る。

「BYDは日本の軽自動車をよく研究していて、人気の装備や機能は網羅しています。EVなので自宅に充電環境があればガソリンスタンドへ行く必要がなく、オイルなど定期交換物も少ない。静粛性やモーターならではの力強さもメリットです。一方で、乗り心地については日本の軽自動車のほうが良いと感じます」

 さらにRACCOは、通信によって車載アプリや安全・運転支援機能などを更新できるOTAに対応し、AC100V電源やV2H、V2Lも備える。単に「ガソリンを電気に置き換えた軽」ではないところも、国産スーパーハイトとは違う強みだ。

 とはいえ、圧倒的な販売実績を持つN-BOXと正面から戦って勝てるのか。高橋氏は、そもそも「勝ち」の基準が違うと話す。

「N-BOXは年間20万台の実績がありますが、RACCOの年間販売目標は1万台なので比較にはなりません。ただ、発売から1か月で1500台を販売していて、1万台の目標は達成できそうです」

 つまりBYDは、N-BOXを倒して軽自動車市場のトップに立つ必要はない。巨大な市場から年間1万台を獲得できれば、まずは参入成功といえるわけだ。

 一方、普及に向けた壁について高橋氏は「販売・整備網は国内メーカーと比較できるレベルには達していません」としつつ、2026年7月時点で55拠点、サブディーラーを含め77拠点まで拡大しており、輸入車メーカーとしては軌道に乗りつつあると評価する。さらに、中国メーカーへの抵抗感以上に大きな課題として挙げるのが充電インフラだ。

「中国車への拒否反応には、SNSなどの根拠のない情報から生まれているものもあると感じます。ただ、冷静に見る人も増えていて、偏見の壁は徐々に変わっている。一方、インフラについては間違いなくEV普及の壁になります」

 高橋氏は、RACCO一台が日本の軽自動車市場を変えるというより、ユーザーのEVに対する認識が徐々に変わりつつあると見る。そこに充電インフラの整備が追いつけば、EVの普及は加速し、軽自動車市場にも変化が起きていく可能性があるという。

 日本でしか売れない軽自動車をわざわざ一から作り、その市場に海外メーカーが本気で参入してきた。年間1万台という目標が現実になれば、日本メーカーの“牙城”だった軽自動車市場にも、新しい選択肢が定着することになりそうだ。

高橋アキラ
モータージャーナリスト。自動車専門誌やWEBメディアを中心に、新車解説や試乗レポートなど幅広く執筆。国内外の自動車事情に精通し、EVをはじめとする次世代車や自動車業界の動向についても取材を続けている。