■労働時間規制そのものが緩和されたわけではない

 今回の見直しは、働きたい人のためのものなのか。それとも、働かせるための見直しか──。働き方評論家で、千葉商科大学基盤教育機構教授の常見陽平氏はこう話す。

「業種・職種によって働き方のスタイルも違えば、人手・人材不足の程度も異なります。特に2024年、時間外労働の上限規制の適用が猶予されていた物流のドライバーや医師、建設業などにも、上限規制が適用されました。労働時間を減らすことは大切ですが、一律指導ではうまく回らない業種・職種もあったのではないかということです」

 では、これによって企業は、社員を以前より長く働かせやすくなるのか。

「労働強化につながる可能性は確かにあります。ただ、あくまで一律の監督がなくなったのであって、労働時間規制そのものが緩和されたわけではありません」(前同)

 つまり、今回の見直しは、決して残業を推奨する政策ではないのだが、見ようによっては非常に曖昧な変更なのだ。それゆえ一部からは、“ブラック企業”が増えるのではという懸念も上がる。ただ、常見氏は、むしろ企業側に厳しい時代になる可能性を指摘する。

「労働時間をどんどん増やす企業に人が集まり、定着するかといえばそうではないでしょう。企業は、これまで以上に高度な労務管理が求められますし、働く人にとって魅力のある労働環境をどうつくるか、自分たちで考え続けなければいけません」(同)

 厚労省も今回、一律指導をやめる代わりに、36協定で企業が定めた健康・福祉確保措置についてこれまで以上に重きを置くとしている。過重労働による健康障害のおそれがあれば、引き続き是正を求める方針だというが──。

「労働組合側は、裁量労働制を緩和する動きとも相まって、かなり警戒を強めると思います。労働時間規制の柔軟化には比較的理解を示す論調だった日本経済新聞も、今回の指導の見直しについては、かなり厳しい社説を書いていました。それだけ、危機感が強いということです。人手・人材不足をAIで補う業界もありますが、代替がしにくい業界もあります」(同)

 そのうえで、常見氏は今回の見直しをこう捉える。

「大事なのは何時間まで働かせられるかではなく、どうすれば働く時間を減らせるか。企業は、残業を管理するという視点から、“働き方をデザイン”するという方向に進むべきです」

 残業45時間以内ならホワイト、超過ならブラック。今後は、そんな単純な線引きが通用しなくなるのかもしれない。労働者は、企業のための歯車でも、馬車馬でもない。一人ひとりの働き方を尊重できる企業にこそ、おのずと“人”は集まるのだろう。

常見陽平
1974年生まれ.北海道札幌市出身.一橋大学商学部卒.同大学大学院社会学研究科修士課程修了.リクルート,バンダイ,ベンチャー企業,フリーランス活動を経て、現在、千葉商科大学基盤教育機構教授,評論家
主著─『日本の就活』(岩波新書)『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社新書)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版)『50代上等!──理不尽なことは「週刊少年ジャンプ」から学んだ』(平凡社新書)など