それでも残した「300万円の壁」

「今回の反応を見ても、皆さんの興味はやはりラウンジだったんだなと思います」

 そう話す鳥海氏自身、4月に当初の制度変更が発表された際には「ラウンジが使えなくなるというのは、なかなか厳しい」と感じたという。

「航空会社のラウンジは、飲み物を無料で飲めたり、一般の待合スペースよりゆったり過ごせたりする場所です。そこを利用できるという優越感も含めて、上級会員にとって関心の高いサービスなんです」

 鳥海氏がANAに直接取材したところ、制度変更の背景には国内線ラウンジの混雑を解消したいという問題意識があったという。鳥海氏は、その一因が過去に実施したプレミアムポイントの「ダブルポイントキャンペーン」にあるのではないかと疑問をぶつけたが、ANAはこれを明確に否定。むしろ2014年以降、国際線ネットワークの拡大に伴って利用者が増えた影響が大きいとの説明だったという。更にコロナ禍が明けてからの羽田空港の国際線増便で「プラチナ」を取得した人も多いとのことだ。

 今回の再見直しでSFC LITEも国内線ラウンジを利用できるようになったものの、「混雑時を除く」という条件は残る。ただ鳥海氏は、「多くの時間帯では使えるのではないか」と見る。

「空港にもよりますが、本当に混み合う時間帯はある程度決まっています。GWだから必ず使えないわけでもなければ、平日だから必ず使えるわけでもない。本当にタイミングによると思います。ただ、中堅の地方空港などはキャパシティの面で気になるところです」

 新制度が始まるのは2028年4月。それまでに利用状況を予測しながら、「混雑」の基準なども詰められていくのではないかという。
 そして、今回もうひとつ注目したいのが、ラウンジ利用では譲歩しながらも、年間300万円という基準は変えなかったことだ。

 鳥海氏は4月の発表当初から、決済額だけで線引きするのではなく、実際にどれだけANA便を利用しているのかという「搭乗実績」も加味すべきだと主張してきた。

「300万円というのは、海外によく行く人でも簡単な数字ではありません。仕事で飛行機に乗っていても航空券は会社のお金で購入している人もいますし、マイルを使っている人もいます。ぼくは当初から、搭乗実績も加味してほしいと言ってきました」

 実際、ANA便を頻繁に利用する人が、必ずしもANAカードやANA Payで年間300万円以上を決済するとは限らない。そして鳥海氏によると、ANA側も制度の再設計にあたり、年間200万円とする案や、まさに搭乗実績を加味する案など、複数のパターンをシミュレーションしたという。それでも最終的には、ラウンジ利用者を抑制するためにも「300万円」というハードルを残す必要があると判断したとのことだ。

 しかしその時点で、既存会員の反発は予測できたはずだ。鳥海氏は比較として、JALが上級会員制度を変更した際の対応を挙げる。

 JALは既存会員の資格には手をつけず、新たに取得する人のハードルを上げることで会員数をコントロールした。一方のANAは、すでにSFCを取得している既存会員にも新たな基準を適用する道を選んだ。

 鳥海氏は、今回ここまで大きな反発が起きることはANA側も想定していなかったのではないかと見る。しかし、既存会員には従来の資格を維持したJALに対し、ANAはすでにSFCを取得している会員にも新たな条件を課す。当然、後者のほうが既存会員から反発を招きやすいことは想像に難くない。それだけに、ANAが今回の反応をどこまで想定して制度を設計していたのかについては、いささか疑問が残る。

 では今回の変更で、これからSFC取得を目指す、いわゆる“SFC修行”をする人はどうなるのか。

「新規で目指す人は減るんじゃないかなと思います。ただ、国内線ではラウンジを使えるので、そこまでダメージがない人もいる。一方で、“スター アライアンス・ゴールド”がどうしても欲しい人には厳しい内容です。結局、どこに価値を置くかによって変わってくると思います」

 トラブル時などにはSFCを持つメリットを実感する場面もあり、鳥海氏も「あって損はなく、可能なら欲しい資格ではある」と話す。ただ、そのためにどこまで“修行”をするのかは、これまで以上に人によって判断が分かれそうだ。

 会員の声を受け、ラウンジ利用では軌道修正したANA。しかし、制度の根幹となる「年間300万円」は動かなかった。どれだけ飛行機に乗ったかではなく、ANAのサービスで年間いくら決済したかが問われることになる。その300万円という線引きに利用者が納得できるのか。そして今後も“修行”してまで手に入れたいステイタスであり続けるのか。ラウンジをめぐる再見直しでひとつの答えは出たが、SFCの価値をめぐる議論は、まだ続きそうだ。

鳥海高太朗(とりうみ こうたろう)
航空・旅行アナリスト、帝京大学理工学部航空宇宙工学科非常勤講師。航空会社のマーケティング戦略を専門とし、各航空会社への取材を続けながら、テレビやラジオ、雑誌、Webメディアなどで航空・旅行業界について解説している。著書に『コロナ後のエアライン』(宝島社)など。