■スピード展開でも不満を感じさせない演技力の高さ

 X上では、《「朝ドラ」史上最速の展開。でも宇野千代も10日で家出してるんです。まだまだドラマはこれから。このぐらいのハイペースで進めないと90歳まで描けません》《登場わずか2週でこんなに爪痕残す主人公の父がこれまでいたかね。完全にこれ、清治は珠の中でずっと生き続けるだろう》などと好評だ。

 爆速展開でも視聴者が置いていかれないのは、石橋(珠)や渡部(父・清治)、国仲涼子(47/継母・リョウ)をはじめ、それぞれの演技が素晴らしく、演じる役のキャラが見る側に深く伝わっているからだろう。たとえ唐突に見える行動でも、「この人ならそういうことをするはず」だと、納得してしまうのだ。

 なにより、渡部が威厳のある家長から、自らの死を前にみっともなくうろたえる姿まで、振り幅広く演じ、清治という男の内面を伝えきったからだ。さらに石橋もすごい。出色は火曜の同級生・忍(木竜)と、女学校での同人誌を通してのやり取り。短いシーンながら、セリフと表情で珠のすべての想いが全部出せていた。

 また、演出も効果的で、心情を繊細に引き立てる光と影による明暗のコントラスト、綿密に計算されたであろう背景のセット。散る花びら、降る雪などの植物や自然の描写と、それぞれのシーンでなにが言いたいのかが、画から伝わってくる。だから爆速展開でも、人々の心の動きや物語の内容がちゃんと入ってくるのだ。

 初回から加賀まりこ演じる晩年の珠が登場しているように、ヒロインの90歳台まで描くことを考えると、展開が早めになるのは仕方ない。だが、これらの演技レベル、演出なら、視聴者が置いていかれることはない。波乱万丈がすぎる宇野千代の人生も、過不足なく描いてくれるはずだ。

(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ
編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。