■近視の進行を食い止める有効な生活習慣とは

 適切な治療を行えば、本当に視力の低下を食い止めることができるのだろうか──。実際、“近視抑制”という取り組みは医療の世界でも近年大きく注目されているという。

「当院でも5年ほど前から近視抑制の治療を行っていますが、年々患者数は増加しています。オーソドックスな治療には、睡眠中に専用のコンタクトレンズを使用することで角膜の形状を強制するオルソケラトロジーなどがありますが、2025年には近視の進行抑制を目的とした点眼剤が販売、2026年には日中の長い時間に使用できる “ワンデー”タイプのソフトコンタクトが国内承認されています」(以下カギカッコすべて内野氏)

 治療は、薬物治療をベースに眼鏡の着用や生活習慣の指導、希望があれば、オルソケラトロジーや近視コンタクトレンズを組み合わせるといったもの。

 しかし、どの製品も効果はあくまで“今の近視をこれ以上進行させない”もので、一度進んでしまった近視を改善することはかなわない。

「一般的な近視の多くは軸性近視というもので、眼球の奥行きが伸びて焦点がずれたことによるものです。これは身長が伸びる原理と同じで、再び縮めることはできません。身長が止まる17歳前後までに、いかに伸びないようにするか。これが近視を抑制するなかで大切なことなんです」

 親としては、子どもが成長しきる前に可能な限り早く気が付き、対応することが肝心なのだ。

「子どもの近視のリスクは、片方の親が近視だと2倍、両方だと5倍と遺伝的要因も確認されています。他にも、弱視の原因となる“子どもの遠視”や、打撲や結膜炎などの目のトラブルは頻繁に起こり得ますし、まずは、3歳児検診や学校の健康診断で気にかけるようにしてあげてください」

 ここまで「子どもの近視抑制」について触れてきたが。では我々大人の近視はもう手遅れなのだろうか……?

「一度進行した近視は改善できません。しかしながら、日頃の習慣で進行を遅らせられる可能性はあります。社会人の多くはパソコンなどの近々作業が長くなりやすいですから、ときどき遠くに目のピントを合わせることが大切です」

 子どもにも大人にも近視の進行を食い止める有効な生活習慣とは……。今すぐにでもできる“20-20-20ルール”を紹介していただいた。

「近くを見るときには20センチ以上目から離し、20分に一度は20フィート(6m)先を見る、そしてしっかり深い瞬きをする。日ごろからそういった習慣をもつことで進行は抑えられると思いますよ」

 今まで手をこまねくしかなかった近視の進行も、医療の力で食い止められるようになっている。だがまずは、スマホとの付き合い方や、遠くを見る習慣など、今少し生活を振り返ってみても良いかもしれない。

内野美樹
ケイシン五反田アイクリニック 院長。
山梨医科大学医学部卒業後、慶應義塾大学 眼科学教室入局。米・ハーバード大学 公衆衛生学修士取得。慶應義塾大学 眼科学教室 特任講師。
眼科のなかでも「ドライアイ」を中心にした角膜の疾患を専門とする。日本におけるドライアイについての疫学研究の第一人者であり、近年増えている長時間のパソコン作業によるVDT(Visual Display Terminal)症候群などの研究を行っており、日本のドライアイの有病率、パソコン使用時間とドライアイとの関係について世界で初めて証明した。ドライアイにつながる危険因子を研究し、ドライアイ診断に関する国際的な基準づくりにも携わる。
予防医療の啓蒙活動にも力を入れ、『しまじろうとEye Care Book』幼稚園や保育園の先生の目の教科書となるような『子どもの目見守りサポートBook』を作成。
目の健康について学び、セルフケアができるよう、『ナカナイ涙』などのWebサイトの監修も手掛ける。