■「今回の自転車乗りに非はない」
今回の動画クルマの追い越し方はもちろん、ロードバイク側にも改善すべき点はあったのだろうか。今回の動画クルマの追い越し方はもちろん、ロードバイク側にも改善すべき点はあったのだろうか。疋田氏は、今回の自転車側の走行については「非はありません」と明言する。(以下、カギカッコのコメントはすべて疋田氏)
「今回の動画に関しては、軽ワゴンのドライバーがあまり走り慣れていないな、という印象を受けました。安全なところで追い抜けばいいだけの話なので」
そもそも自転車は、道路のどこを走るのが適切なのか。
「ロードバイクに限らず、自転車が走る場所は車道の左端です。しかし、日本の道路は必ずしもそのように整備されていません。場合によっては自転車がクルマに譲る場面もあるでしょうし、その逆もあるでしょう」
後続車への配慮についても、一律に決められるものではないという。
「安全上のマナーというものはありません。まずはルールを守ること。マナーの部分はケースバイケースなのです」
では、「道志みち」のようにカーブが多く、道幅も限られる道路では、双方にどのような注意が必要なのか。
「ロードバイク側は、後ろから来るクルマに『自分はここにいるぞ』とアピールすることが大切です。昼間から赤色のフラッシャーを点けるのもひとつの方法でしょう。一方、クルマは見通しの良いところで、なるべく十分な間隔を取って追い抜くことです」
今回の動画が炎上した背景について、疋田氏はSNS特有の議論の広がり方にも問題があると指摘する。
「ネット世論の困ったところは、“だからロードバイクはダメ”“だからクルマはダメ”と主語を大きくしてしまいがちなことです。問題のあるロードバイクもいれば、問題のあるクルマもいる。それぞれ個別に考えるべきでしょう」
実際、投稿者も「僕ではない誰かの危険運転を、同じ趣味というだけで僕に当てはめてくる人も多く、不快でした。本来の論点には触れず、自転車乗りへの不満のはけ口として一方的に批判されたことが残念です」(投稿者本人談)と胸中を明かしている。
さらに、自転車側に批判が集まったことについては、ドライバー側の意識にも原因があると見る。
「今回の場合、自転車乗りの方に非はありませんし、投稿者への批判については、クルマ側のエゴも大きいと思います。クルマ側は“自転車が車道をゆっくり走っていて邪魔だ”と思いがちですが、そういう認識のほうが間違っています」
疋田氏が繰り返し強調するのが、道路を利用する者同士が空間を分け合うという「Share the Road」の考え方だ。
「交通社会において、最も良くないのは“邪魔だ”という意識です。誰もいない道路を一人で走れるなら理想ですが、現実にはそうはいきません。お互いにとってお互いは基本的に“邪魔”なのです。だからこそ、相手を思いやり、自分が相手にとって危険にならないように走る。それはクルマも自転車も同じです」
危険な追い越しを訴えた投稿が、ロードバイクそのものへの批判にまで発展した今回の騒動。しかし、道路はクルマだけのものでも、自転車だけのものでもない。どちらが邪魔なのかを言い争うのではなく、互いの安全をどう守るか。今回の動画は、そんな当たり前の意識をあらためて問いかけている。
疋田智(ひきた・さとし)
1966年、宮崎県生まれ。自転車評論家。89年、東京大学文学部卒業後、TBSに入社。毎日12kmの通勤に自転車を使う「自転車ツーキニスト」として、環境や健康によく、経済的な自転車を社会に活かす施策を論じる。芝浦自転車研究所所長、NPO自転車活用推進研究会理事。TBS情報制作局のプロデューサーでもある。著書に『「自転車」はどこに向かうのか』(旬報社)など。