■キャラクター使用の制限と自由度
それならなおさら、ペンギンを継続すべきだと思いたくなるが、それでも卒業を決めたのには別の理由があるのかもしれない。その一つと思われるのが、「SuicaのペンギンがJR東日本のオリジナルキャラクターではない」という点だ。
実は、Suicaのペンギンには“原作”があるというのをご存じだろうか。もとになったのは、イラストレーターで絵本作家の坂崎千春氏による絵本『ペンギンゴコロ』(文溪堂)のペンギン。
もしや、契約金や権利関係などの問題で、継続できなかったのではないか──。
「契約金の問題ではないような気がします。私は坂崎さんにお会いしたことがありますが、そういうタイプの方ではありません。それが理由なら、もっと早い段階で契約は終了になっていたのではないでしょうか」(同)
では、ペンギンを卒業させるに至った理由はなんだろうか。陸川氏が一つの可能性として挙げたのは、キャラクターを扱う際の“自由度”だ。
「何十年も続いているキャラクターは、時代に合わせてデザインをアップデートしてきています。Suicaのペンギンは原作がある以上、そういったアップデートができなかった可能性もあります」
さらに、原作のあるキャラクターには、“制限”が設けられる場合もあるという。
「著名なキャラクターであれば、商品を持たせてはいけない、商品の横に立つことも許されないケースがあります。キャラクターにはそれぞれ世界観があるので、その世界観を損なう使い方はできません。Suicaのペンギンも絵本のキャラクターですし、恐らく、やれることとやれないことがあったのではないかと思います」(前同)
かつてSuicaは、電子マネーの先駆けだった。だが近年、コード決済の普及によって、その座から滑り落ちつつある。JR東日本は今秋、モバイルSuicaアプリにコード決済サービス「teppay」を搭載予定。Suicaを「生活のデバイス」へ進化させようとしているのは、決済市場で巻き返す狙いもあるのだろう。
そこで、あえて長年親しまれたペンギンを卒業させることで、進化するSuicaへ注目を集めようとしたのではないか──。その可能性について陸川氏は、
「おそらくそれはないとは思いますが、そこまで狙って卒業させたとすれば、“生活のデバイスへ進化したい”というメッセージを届けるには十分な効果があったように思います」
もちろん、交代に至った本当の理由は当事者にしか分からない。ただ、別れを惜しむ声の大きさ自体が、Suicaのペンギンが果たした仕事の大きさを物語っている。
「一つのサービスのキャラクターとして25年も続くことはなかなかありません。関西でもSuicaといえば通じますし、ペンギンはSuicaを全国区にしてくれました。それだけきちんと浸透させたという意味で、十分に役割を果たしたキャラクターだと思います」(前同)
後任キャラクターは、若手クリエイターが制作した3案から利用者投票で選ばれる。結果はSuica誕生25周年の11月18日に発表され、その後、愛称が一般公募される予定だ。新たなSuicaの顔は、ペンギンが25年かけて築いた親しみやすさを受け継げるのか。
陸川和男(りくかわ・かずお)
キャラクター・データバンク代表取締役社長。広告・マーケティング専門誌の編集者、マーケティング会社の研究員を経て、2000年に同社を設立。キャラクタービジネスの専門家として、市場調査やコンサルティング、執筆、講演活動などを行う。東京2020大会のマスコット審査会委員も務めた。著書に『図解でわかるキャラクターマーケティング』(共著)など。