■恋の裏を丁寧に描く『ブラッサム』

 今後、東京での保(金子)との同居生活、そして結婚が描かれる。最初の夫からは早々に逃げ出し、同僚の教師・島村(工藤阿須加/35)との関係が破局したら保へと、男の乗り換えの早さに苦言を呈する声はある。そもそも、モデルの宇野千代が“恋多き人”なのだから、これぐらいは想定内の批判だが、作る側もそこは心得ているようだ。

 珠が上京を決意するまでには、いわれなき誹謗中傷による岩国での生きづらさ、継母・リョウの後押し、弟・守の珠への思いなど、ちゃんと珠が岩国を出て、保のいる東京へ行かざるを得ない状況をしっかりと描いているのだ。保についても、恋というより共感の感情を匂わせている。批判など出ないよう、珠の行動の裏にある事情を、実に丁寧に描いている。これで文句を言う人は、まともに『ブラッサム』を見ていないとしか言いようがない。

 宇野千代の史実から、このあと珠は小説家・尾崎士郎がモデルの西尾一路(染谷将太/34)と不倫し、保と離婚。西尾と結婚すると思われる。そちらの流れをスムーズにするためにも、仕方なく保のもとへ行く、という複雑な事情を描いたのかもしれない。朝ドラで恋多き人生を描くのは、確かに難題ではある。しかし、岩国でのこの手間のかけ具合を見ると、この難題もなんなくクリアできそうだ。

 岩国編は、クズ親父との関係、朝ドラ史上最速の離縁、理不尽な幕切れとなった初恋など、けっこうドロドロな内容のはずだったのが、どこか軽やかさ、さっぱりした感じがあった。それは石橋の演技もさることながら、脚本、構成の巧みさにあるのではないだろうか。始まってまだ1か月たっていないが、『ブラッサム』には名作の匂いがプンプンする。

 珠がさまざまな人物とめぐりあう東京編は、作家役の染谷将太のほか、イッセー尾形(74)、尾野真千子(44)、高良健吾(38)、文芸雑誌の編集に遠藤憲一(65)と井浦新(52)、珠と深く関わっていく画家役で錦戸亮(41)とキャストも充実。作家たちから強い刺激を受ける、今後の東京での珠に期待したい。

(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ
編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。