2008年に小説家としてデビューして以来、柚木麻子は15年ものあいだ人気作家として支持を広げてきた。小説の執筆以外にも、TBS Podcastで「Y2K(2000年代)の文化を伝える」番組に出演し『Y2K新書』で軽妙なトークを披露するなど、その活躍は多岐にわたる。本サイトでは、柚木の最新作『オール・ノット』執筆の裏側に迫る。【第1回/全4回】
「個人では解決できない話を書いてみようと思いました」
柚木麻子さんに、小説『オール・ノット』を書いた理由を尋ねると、こうした答えが返ってきた。
『オール・ノット』は横浜を舞台に、生活費を切り詰めて暮らす苦学生・真央と、元お金持ちの女性・山戸四葉を中心とした人間関係が不思議な縁をつないでいく物語。「今度の柚木麻子は何か違う。これがシスターフッドの新しい現在地!」と銘打たれた作品だ。
真央がバイト先のスーパーで、何でも売れる”嘘つき”な実演販売員、四葉と出会ったことで生まれたシスターフッド小説を書いた理由を、柚木さんはこう説明してくれた。
「21年10月に発表した『らんたん』(小学館)では、女性同士の連帯でお互いの知識なりバトンを渡し合って、女性が教育を受けられない中でのシスターフッドを大河形式にして描き、評価してもらって嬉しかったんです。
ですが、だんだんメディアで”今の日本の問題っていうのも女性同士の連帯で解決できますよね?シスターフッド最高”と言われるようになって、それがだんだんイヤになってきて。
“今の日本の問題”は社会全体で取り組んでいかなきゃいけないのに、女性の連帯に丸投げしても解決できないんじゃないかな……という違和感がこの1年で大きくなったんです。そこで、“社会全体で考えなきゃいけない”っていうことを伝えたいと考えて、個人では解決できない話を書いてみようと思いました」