■複雑すぎる奨学金制度への疑問

ーーそんな中で、どうして「奨学金」返済をしている苦学生にたどり着いたんですか?

『オール・ノット』を書き始めたとき、お金に困ってる若い世代へ実際に取材をしたら、奨学金を利用している方が多くて。そこで奨学金について勉強してみたんですが、私も未だに制度についてちゃんと分かってないです。

 奨学金を利用してる当事者の方も完全に理解するのは難しいと思います。あまりにも政府の都合でルールがコロコロ変わってて、ただでさえバイトと学業で大忙しで将来に不安を抱えてる若者が把握できるのかなと疑問に思って、“これはちょっと変なんじゃないのかな?”と感じたのがきっかけです。

 そんな日本が抱えている問題を、女性同士の優しさとかまごころでも解決できないということを一度ちゃんと書いてみたいなって思ったので、必然的に苦学生の真央ちゃんが主人公になりました。

ーー今作の登場人物の1人に“実亜子”というボーイッシュで同性愛者のキャラクターが登場しましたが、実亜子というキャラクターを登場させた理由はありますか?

 実亜子は、“最後まで役に立たない人”にしたかったんです。これ、マイノリティ問題にも触れているんですが……エンタメの中で描かれる性的マイノリティの登場人物って、主人公にとって役に立つ存在や、主人公の背中を押してくれる存在だったり、あるいは悲劇的な運命をたどるパターンが多いなと感じていて。

 同性婚について、“愛し合う2人が結婚できないのはおかしい”っていう意見もあると思うんですけど、反対に、愛し合ってない人同士がノリで結婚しちゃえるぐらい当たり前になればいいとも思ってて。だって異性愛者はノリで結婚することも現行の制度では可能じゃないですか? お金のために結婚する人だっているわけだし。

 だからこそ、実亜子は最後まで愛の意味も分からないし、真央ちゃんの本当の辛さも分かってない。人に迷惑をかけて、なんだったら主人公の足を引っ張るぐらいにしたいなと思い、誠実すぎないように、バランスを考えて描きました。

柚木麻子/撮影・ピンズバNEWS編集部

■柚木麻子(ゆずき・あさこ)
 1981年8月、東京都世田谷区生。2008年、『フォーゲットミー、ノットブルー』で第88回オール読物新人賞受賞。代表作に『ランチのアッコちゃん』シリーズ(双葉社)、『ナイルパーチの女子会』(文藝春秋)、『らんたん』(小学館)などがある。最新作『オール・ノット』(講談社)が4月19日より発売中。