電車に乗れば、頭上にあるのが当たり前だった中吊り広告。週刊誌の刺激的な見出し、新刊本、百貨店の催事、旅行の案内。車内で何気なく眺めていた、あの風景がいま、大きく変わろうとして――。
広告代理店関係者は言う。
「阪急電鉄は10月14日、全線の営業車両で中吊り広告の掲出を2027年4月4日の営業終了をもって終いる。了すると発表しました」
中吊りを見直す動きは阪急だけではない。京阪電鉄でも掲出数を試験的に削減。伊予鉄道では、すでに一部の新型車両から中吊り広告そのものが姿を消している。
では、中吊り広告を取り巻く環境は、なぜここまで変わったのか。
大手広告会社で企業のPR業務などを手掛けたフリーライターの中川淳一郎氏は、こう語る。
「やっぱり、みんながスマホの画面ばかり見るようになったことだと思います。1990年代なら、たとえば『FOCUS』に大きなスクープが出るとなれば、電車の中で中吊りを見て、『これは読みたい』と、駅を降りたらすぐ売店で雑誌を買う。そんな動線がありました」
当時は、週刊誌の見出しを眺めるだけで、その週に世間を騒がせている事件や芸能ニュースが見えてきた。読み終えた新聞や雑誌が網棚に置かれ、次の乗客が手に取ることも。『噂の!東京マガジン』(TBS系)では、そんな中吊り広告を取り上げる『中吊り大賞』というコーナーまで放送されていた。
「2000年代には、一編成の広告を一社で埋める『電車ジャック』もよくありました。それだけ電車が大きな広告メディアだったんです」(中川氏)
背景には、当時の消費スタイルもあったという。
「2000年代前半くらいまでは、それなりにみんなが中流意識を持っていて、同じテレビを見て、同じ雑誌を読んで、同じ百貨店に行く。そういう時代だったからこそ親和性が高かったんでしょうね」(同)