■存在感を増す『デジタルサイネージ』
ところが、スマホの普及で人々の視線は手元へ。
ニュースや動画、買い物まで、一人ひとりが別々の情報に触れるようになると、それと歩調を合わせるかのように、中吊りの“花形”だった雑誌自体の市場も縮小。広告の作り方も変わっている。
「昔の週刊誌の中吊りは、刺激的な見出しで目を引くのが武器でした。でも今は、差別的、性的、攻撃的と受け取られないか、かなり慎重にならざるを得ない。SNSで一部分だけ切り取られて批判されることもありますからね」(中川氏)
さらに、駅や車内では、液晶やLED画面に静止画や動画を流す『デジタルサイネージ』が存在感を増している。
「中吊りは全車両に一枚一枚取り付けて、掲載期間が終わったら外す。紙だから相当な枚数を印刷する必要もある。一方、デジタルサイネージなら内容をすぐ変更できる。急にキャンペーンが中止になっても差し替えられる。だったら、わざわざ紙を印刷して人が付け替える必要もないよね、となるのは自然ですよね」(中川氏)
ただ、電車広告そのものが廃れているわけではない。
「電通の『2025年 日本の広告費』によると、交通広告費は1736億円で前年比108.6%。関西では大阪・関西万博を背景に、駅の大型デジタルサイネージも伸びています。広告自体が減ったというより、紙からデジタルへ移っているんです」(前出の広告代理店関係者)
中吊りが減る一方で、交通広告は形を変えながら残っている。
では、中吊りはこのまま姿を消していくのか。
中川氏は、数が減ったことで逆に目立つ使い方も考えられると話す。
「当たり前ではなくなったからこそ、あえて使うことで話題になる可能性はあります。一週間だけ一枚出す、といった使い方をすれば珍しさが出て、写真を撮った人がSNSに上げてくれる。広告を見た人数だけではなく、その先の拡散まで考えた媒体になっていく可能性はあると思います」
ふと顔を上げたとき、思いがけない本やニュース、催し物を知る。そんな車内の風景も、少しずつ変わりつつある。
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973年生まれ。東京都出身。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者などを経て、2006年よりさまざまなネットニュース媒体で編集業務に従事。並行してPRプランナーとしても活躍。2020年からは佐賀県唐津市在住。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社)『バカざんまい』『よくも言ってくれたよな』(ともに新潮社)など。