2008年に小説家としてデビューして以来、柚木麻子は15年ものあいだ人気作家として支持を広げてきた。小説の執筆以外にも、TBS Podcastで「Y2K(2000年代)の文化を伝える」番組に出演し『Y2K新書』で軽妙なトークを披露するなど、その活躍は多岐にわたる。本サイトでは、柚木の最新作『オール・ノット』執筆の裏側に迫る。【第3回/全4回】

 これまで様々な題材を描いてきた柚木さんはどうやってアイデアを膨らませているのか?作品作りの極意を伺ってみたーー。

ーー今作『オール・ノット』では宝石がキーアイテムとして登場しますが、今回なぜ宝石を登場させようと思ったんですか?

 昔は、“おばあちゃんが大事にしてたブローチが何の価値もなかった”ことが結構あったんですよね。なぜなら当時は宝石鑑定人じゃなくて、何の資格もない行商の人が家に来て宝石を売っていたことが大きいっていうことを宝石商の方にインタビューした時に聞いて、面白いなと思って。

 今だったら、メルカリとかでも厳しく査定しますよね。公衆の面前でプロが入って査定していて、宝石の価値って変わってる。それに、宝石に価値がなくなった一番の原因は、みんなパーティーに行かなくなったからと聞いたんです。昔は普通の人でも宝石は1個は持ってないと恥ずかしいものだった、と。

 でも、いつからかお金持ちが白Tにデニムでバスキアを買ったりするようになって。正直お金持ちがバスキアを買う時代って、はっきり言って“文化的な死”だと思っています。

 宝石は趣味として一番失敗する確率が高いもので、変な贋作を捕まされたり、似合わなかったり、どうせ着けなかったりするものをお金持ちがたくさん買う内に、ジュエリーデザイナーや宝石商たちの腕は上がって雇用が生まれ、どんどん文化が育った。

 でも今は、お金持ちはまず失敗したくない。“だったら投資した方がいい”って言うから全然文化が育たないし、みんなパーティーもやらないし、みたいなことを宝石商の人が言ってなるほどなと思って。“宝石は着けなければただの石ですから”っていう話を聞いていました。