■「失敗が文化的なものを養う」

ーーそんな柚木さんは執筆にあたり徹底的に取材をするそうですが、今作で宝石を調べて知らなかったことや学んだこと、または作品に反映させた部分はありましたか?

 宝石の本も色々読んだんですが、正直あんまり面白くなかったんですよね……。

 ただ、そのインタビューをした宝石商のTさんの話は抜群に面白くて、考えてみたらTさんは大量の冒険と、そこからくる失敗と美意識に従ってこころのおもむくままにした買い物を存分に経験してきたから、話が抜群に面白いんですよ。だから、ラストの四葉の怒涛のトークはほとんどTさんのトークを全部書いてます。

 私は多分宝石自体に興味はないけど、Tさんの大量の失敗の歴史みたいなものにすごく惹かれました。面白い人って大量の無駄な飲み会、大量のどうでもいい旅行、大量のどうでもいい映画を見てる。みんなが読んでない大量の本を読むとか、いわゆるストレートにやってきた優等生の知識人じゃない人の話って面白いんですよね。

柚木麻子/撮影・ピンズバNEWS編集部