■印刷は失敗も廃棄せずに活用「欲しいと言ってくださる方が結構いる」

「デジタルに疎いこともあり、メールの“再入稿してください”というところしか見ていなくて、何かの不具合が起きたからアップし直せばいいのだと思っていたんです。入稿画面には枠線があったのですが、“トリミングはやってくれる”“この中に収まればいいんだ”と認識し、写っていた机ごと入稿し直してしまった形です。後々よく見たら、メールにはちゃんと《ご入稿データがそのまま印刷されます》と書いてありました。印刷会社さんは何も悪くありません。すでに正しいデザインの名刺は発注しました」(鈴木さん、以下同)

 今回の印刷にかかった費用は、600枚で送料込み2800円ほど。「開業したばかりで売り上げもまだ少ないので、3000円程度でも痛いです……」と話すが、廃棄せずに活用できているという。

「話題になったせいか、欲しいと言ってくださる方が結構いるので、この600枚限定で配っています。ただ、ネットを見ていない方に渡しても戸惑わせてしまうので、欲しいと言ってくれた方にだけ、正しいものと合わせてお渡ししています」

 すでに友人や交流会で出会った人などに11枚ほどを配ったといい、受け取った人の中には、Xへ《有名になった鈴木さんとお会いして名刺いただきました 記念に番号と日付までいただきました♪》と投稿する人も見られている。

 ただの失敗に終わらず、思わぬ結果となった今回の一件。鈴木さんも反響については驚きをあらわにし、特に嬉しかったものも明かす。

「ちょっとバズって笑い話になればと思って投稿した程度なので、本当に驚きました。中でも嬉しかったのは、同じ豊田で社労士の資格を目指して勉強している方が“合格したら、その名刺が欲しい”と返信してくれたことですね。

 ほかにも、《有名デザイナーが嫉妬するデザイン この発想はなかったと悔しがってるはず》というコメントもあったのですが、たしかにデザイナーの方はみなさん嫉妬しているみたいです。僕もなぜなのかは分かりませんが、皆さんそう言われるのでそうなんだなと思います」

 一方で、今回の投稿に対しては“ミスをするような社労士には頼みたくない”という厳しい声もあったという。鈴木さんもこの点は「確かにそうだと思います」と真摯に受け止めながら、最後も前向きに締めくくった。

「社労士の顧客は完璧を求める方もいれば、人間味や話しやすさを求める方もいます。僕は後者のような方を対象にしたほうがうまくいくと思っていますし、失敗しても、それをどう次に活かすかが大事です。日本は失敗が許されない社会と言われますが、僕は“なんとかなれ”の気持ちで投稿したら、本当になんとかなりました。まだ駆け出しですが、これから社労士として、様々な人の役に立っていきたいです」

「失敗は成功の母」というが、600枚の“失敗した名刺”も多くの縁をつないでいきそうだ。

鈴木浩之(すずき・ひろゆき)
1984年愛知県出身。社会保険労務士。宅地建物取引士、FP2級、日商簿記2級などの資格を保有。2026年9月、鈴木浩之社会保険労務士事務所を開業。「人が辞めない会社づくり」をテーマに、労務相談や労働・社会保険手続きなどを通じて、中小企業の健全な発展と働きやすい職場づくりを支援している。ちいかわや甘いものが好きなおちゃめな一面もある。