さまざまな“顔”と思惑をもつ登場人物、入り組んだ人間関係、予想もつかない裏切り展開の連続。残り2話となったTBS日曜劇場『VIVANT』で視聴者を沼に引き込んでいくのは、主役・堺雅人(49)が見せる「ギャップ」だ。

 堺といえば、やはり『半沢直樹』(TBS系、2013年。2020年に続編が放送)のイメージが強い。降りかかる困難に、信念をもって立ち向かう会社員を演じた堺の放つ決めゼリフ「倍返しだ!」は、その年の流行語大賞にもなった。痛快な勧善懲悪劇にドハマりした視聴者は多く、13年版の最終回の平均視聴率42.2%(関東地区/ビデオリサーチ調べ)は、もはや伝説となっている。

 演出家・劇作家の三谷幸喜氏はかつて、『キネマ旬報』(キネマ旬報社)08年11月号で、「堺雅人という役者の最大の面白さは、その『矛盾』にあるように思う」と指摘していた。

《明るいのに暗い。笑っているのに笑っていない。賢いのにどこか抜けている。熱いのにクール。クールなのに熱い。相反する二つの要素を同時に抱えた人物を演じる時、堺雅人という俳優は、驚くほどの輝きを見せます》

 ドラマ評論家の吉田潮さんも「“正義”一辺倒に寄らないほうが、堺さんの魅力が出る」と語る。

「『リーガル・ハイ』(フジテレビ系、12年)で演じたのが、金の亡者で口が悪く、女にもだらしない性格最悪の弁護士なんだけど、なんだかんだ弱者を救うダークヒーロー的な役どころ。“ギャップ”のある立ち回りが見事でした。

 堺さんは、中肉中背でいわゆるイケメン枠ではないし、声も高くて、渋みがあるわけではない。でも、だからこそ見た目に左右されない配役が活きる。邪悪なものが潜む役こそ真骨頂」

『みんなの朝ドラ』(講談社)などの著書があり、ドラマ批評家でもある木俣冬さんも、『VIVANT』での堺について、

「堺さんが演じる“いい人”は誰も興味がなく、求めるのは“いい人に見えるけど、なんかすごい”みたいな、心に“怪物”を飼っているような役。『VIVANT』ではそれに応えつつスケールもアップし、まさに“皆が見たい堺雅人”の集大成」

 と評する。