■堺雅人の視聴者を捉えて離さない“演技術”

『VIVANT』での堺が演じる乃木憂助は、2つの人格が行ったり来たりするキャラクター。そのうえ、商社マン&自衛隊内の特殊部隊「別班」の一員という、なんとも複雑な設定だ。

「『VIVANT』は、堺さんのいろいろな面が見える作りになっているんですよね。さらに密かに抱える背景もあって、見せ場がたくさんある。2役にしても、堺さんはわかりやすく“入れ替わる”のではなくて、『今どっちなの?』と思わせるような繊細な演技が絶妙。入れ子の構造のなかで多面的な表情を見せるので、視聴者を捉えて離さない。

 正義の味方とは思っているけれど、公儀隠密とは言い難い。しまいには、正義の根本って何だっけ?みたいなところも考えさせられる。そうなればもう堺さんの術中です」(吉田さん)

 堺の“演技術”について木俣さんは、04年の三谷幸喜氏作のNHK大河ドラマ『新選組!』の山南敬介役を例に挙げる。

「単なる優秀な人物ではなく、新選組愛が度を越していた。組から脱走したとき逃げ切れたかもしれないのにあえて捕まって、ルールに則り切腹してしまう。それによって組の結束を強めるという、なんでそこまで? というような割り切れない複雑な心情の揺らぎを、抑えめな表情ながら豊かに感じさせました」

 裏切ったり裏切られたり――ヒリヒリするような仕掛けが垣間見える『VIVANT』で、吉田さんが思い出すのは、堺がかつて出演した映画『その夜の侍』(12年)だという。堺は最愛の妻を轢き逃げされた男の役。抜け殻のようになり、轢き逃げ犯に復讐することだけを考えて日々生きる暗い話だ。

「堺さんは、妻の残した留守電を延々聞いているようなくたびれた中年男。でも内に秘めた復讐心があって、全編にわたって全く明るくないんだけど、吸い込まれるように見てしまう。俳優という箱があるとしたら、堺さんは、その奥の深さを感じさせる演技をするんです」(吉田さん)