■“王道”ではないキャラクターで発揮される人間臭さが魅力的
しかし阿部の真骨頂は、実はその“圧”ではない。吉田さんは、阿部の魅力を「“不器用”なところ」だと評する。
「“王道”ではないキャラクターで真価を発揮する人。阿部さんって基本的に滑舌が悪いし、基本ゴニョゴニョしゃべったり、言葉を発さない不器用な役どころがしっくりくる。
映画『自虐の詩』(07年)では、元ヤクザでうらぶれた役。『海よりもまだ深く』(16年)では売れない小説家で、妻と別れて中途半端な生活を悶々と送る役。どちらもどうしようもないヤツなんだけど、ふと醸し出される人間臭さがすごく魅力的だった。
公安役の『VIVANT』でも、実は昔、後輩を亡くしていて罪悪感を抱えている。それを乃木(堺)と話すなかで打ち明けるという不器用さが、人物像に奥行きを持たせる気がします」
また木俣さんは「愛嬌がある」という言葉で、阿部の“人間臭さ”を表現する。
「『TRICK』でユーモラスな表現を開花して以降、“親しみやすさ”がアップしました。どんなにハードボイルド感を出しても、視聴者が親しみをもって見ることができる。それを大衆性というのかな。
ゴリゴリとした男の世界です! みたいな中でも、ちゃんと可愛らしい面、優しい面があるんだなと思わせるのがいい。『VIVANT』でも野崎(阿部)が料理を得意とするシーンがあって、温かみを感じさせました」(木俣さん)
さらに木俣さんは、阿部が視聴者の“目”の役割を担っているのではないかと指摘。
「“野崎”は公安として、ものがたりの真実を見極める“目”の担当ですよね。同時に、視聴者の目線で難解な物語のガイド役でもありました。最初から“乃木とは何者なのか”っていうことを追っていたので、最後に乃木の“正体”に辿り着いてほしいですね」
阿部演じる野崎は、視聴者をどういう結末へと誘導してくれるのか――。