《阿部寛が主役かと思った》
TBS日曜劇場『VIVANT』第2話が放送された頃は、そうした声がよく聞かれた。同ドラマの主役は堺雅人(49)。しかし、堺演じる「乃木憂助」は第4話で自衛隊の諜報組織「別班」の一員とわかるまでは、表向きにはうだつの上がらないサラリーマンそのもの。そんな乃木を頼もしく引っ張っていたのが、警視庁公安部・外事第4課の「野崎守」役・阿部寛(59)であった。
1986年、中央大学時代に『ノンノ』『メンズノンノ』(集英社)のモデルとしてデビューした阿部は、1987年に映画『はいからさんが通る』で俳優デビュー。しかし俳優としてはパッとしない時期が続く。転機はつかこうへいの舞台『熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン』(1993年初演)だった。
同舞台では、両性愛者で棒高跳びの元オリンピック日本代表だった敏腕刑事役。終始テンションが高い個性的なキャラクターを熱演した。その後、2000年には、仲間由紀恵(43)と共演したドラマ『TRICK』(テレビ朝日系)で冷静沈着なナルシストを装いつつ、実は臆病者で間抜けな部分もある物理学教授をコミカルに演じ、ブレイク。
完璧なイケメンでデキる男ではなく、どこか人間臭い部分が漏れ出る役を演じる時、阿部の本領が発揮されてきた。
たとえば『スニッファー 嗅覚捜査官』(NHK総合、16年)では匂いを嗅ぎまくって事件を解決するという、ともすれば変態性も垣間見える役どころ。『結婚できない男』(カンテレ・フジテレビ系、19年)では、仕事はできるのに皮肉屋で偏屈な男を見事に演じ、ハマる視聴者が続出した。
一方で阿部は、23年1月から放送されているNHK大河ドラマ『どうする家康』の武田信玄役で、無言での“圧”を存分に活かした存在感を放っている。
では、ドラマ評論家たちは、超大作日曜劇場『VIVANT』での阿部をどう捉えたのか。ドラマに関するコラムも多く手掛ける吉田潮さんと木俣冬さんが語る。