■“史上最年少”タイトル戦、掛かるプレッシャーが大きいのは?

 一方、迎え撃つ藤井竜王も様々な想いが胸に去来しているのではなかろうかと、かつて1996年に将棋界で初めて七冠を独占した羽生善治九段(53)と同世代、いわゆる羽生世代の一人でもある森下九段は指摘する。

「初めての同級生対決ですから、新鮮な気持ちもあるかと思います。羽生さんは同世代のライバルが多かった。しかし、藤井さんは若手棋士の中で一強状態。周囲にライバルがいません。ようやく来たかという気持ちでは」

 タイトル戦を争うことになる若き二人。自身が持っていたタイトル戦における両対局者の年齢合計最年少記録が打ち破られることを尋ねると「藤井さんは記録ずくめですから」と、破顔一笑した森下九段。そこに食らいつく同世代である羽生九段について尋ねると、

「藤井さん相手には苦戦していますが、その前後5歳くらいの世代を相手には十分互角に戦えています。あの人は“超”が付くほど特別な人。藤井さん以外の棋士相手ならなんとかなる、という気持ちなのではないでしょうか。

 いずれにしろ、まだまだ引退の二文字が頭によぎることはないどころか、藤井さんに勝ってやろうという思いでしょうね」

 藤井竜王が先手を取った竜王戦の七番勝負。タイトル戦の今後の展開を尋ねると、

「伊藤さんも4連敗で負けると、この程度かと思われてしまう。是が非でも勝たないといけない。そういう意味で掛かるプレッシャーは、伊藤さんの方が大きいように思います。藤井さんは大きな壁ですが、何とか一矢報いてもらいたい」

 棋界が生んだ若き天才棋士2人によるゴールデンカード。最後に笑うのは果たして――。

森下卓
1966年7月生まれ。福岡県出身。78年、花村元司九段門下で奨励会入会。タイトル挑戦6回。本格派の居飛車党。