■夕暮れ時間の縁側マジック
夕暮れどきの静かな時間、夕陽が差す縁側はとても優しい場所になる。1日の終わりが近づくときに、誰かとゆっくり話ができたらどんなにすてきだろう。庭のある縁側は、どんな想いも受け止めてくれるような優しい空気に包まれている。
音は、空豆に「人を好きになる能力値が高そう。基本、人を信じているんだよ」と話すのだが、これは本音だろう。人を好きになることに積極的ではない、心が動かない音だけど、どこかでセーブしているのかもしれない。
大学のときに付き合っていた人は、音楽の仕事がしたい自分の将来を案じて、一流企業に就職が決まった友人に乗り換えるようにして離れてしまった。そんなことで離れるぐらいの人ならば、いつか壊れてしまう程度の関係だけど、音にとっては衝撃的なできごとだった。
それなのに、自分が苦しまないよう、あまり考えないようにしていたのではないか。音は、すでにレコード会社に所属しているぐらいだから、相応の実力はある。だけど、心を揺さぶられた経験を全身で受け止めることをせず、やり過ごしてきたから、他人の心を動かすような熱いものが足りないのだ。
そして、その足りないものを、空豆は持っている。大失恋をして命を削るような思いをしている空豆は、音にはない苦しみや悲しみの心情を知っている。空豆と接することで、そのエネルギッシュな生き方に感化され、プラスの方向に心が動いていくだろう。それが恋心である雰囲気はまだ感じられないが、この縁側で同じ時間を過ごすことで変化していく。夕陽が落ちて、朝日が昇るように、お互いを高めあって輝く未来が見たい。(文・青石 爽)