食欲の秋。日本人の心を惹きつけてやまない牡蠣の季節でもある。フライに鍋物、生食と“海のミルク”の食べ方は様々だ。しかし、一度あたると牡蠣の体内に含まれるノロウイルスの影響から、嘔吐や下痢などの深刻な食中毒症状に悩まされるのもよく聞く話だろう。
美味しいけれどあたると怖い。そんな牡蠣の負の側面である“あたる”というリスクを取り除いた陸上養殖牡蠣を開発したのは、全国でオイスターバーなどを24店舗展開するゼネラル・オイスター社である。陸上養殖牡蠣とは200メートル以深の海洋深層水を牡蠣が暮らす飼育層へと流し込み、植物プランクトンを餌として11か月ほどで出荷する養殖方法だ。
開発へと至った経緯をゼネラル・オイスターグループ『ジーオー・ファーム』で取締役COOを務める鷲足恭子さんに尋ねたところ、きっかけとなったのは「2006年に起きたノロウイルスの大流行だ」と明かす。
06年のノロウイルス大流行とは、全国に約3000箇所ある小児科を対象とした定点調査で、7万人近くの人が胃痛や吐き気、下痢などを催すノロウイルスへの感染が記録された一大流行を指す。実際の感染者数はこの7〜8倍とも言われている。
海水を1日に数十~数百リットル吸い込むことから、海水に含まれる生活排水を飲み込むリスクも高い二枚貝がノロウイルスの原因との言説も流布された。そのためか、同年の牡蠣の売り上げは大幅に減少。
一大産地として知られる福岡県・糸島地区でも、歳暮用の贈答品に注文キャンセルが相次いだと報じられるなど、牡蠣産業の売上に大きな影響を及ぼした。この騒動をきっかけにゼネラル・オイスター社は“あたらない牡蠣”の開発へと乗り出したというわけだ。
「スタートは07年に広島県で作った牡蠣の浄化センターです。現在は、富山県入善町で200メートル以深の海水である海洋深層水を48時間以上かけ流す牡蠣の腸内洗浄システムを採用しております。そこで浄化した牡蠣を店舗で販売したり、同業他社様へと卸販売しています」(前同)
しかし、この浄化方法だけではノロウイルスを牡蠣の体内から除去するのに十分ではないという。牡蠣が1時間に吸い込む海水の量は20リットルほど。ノロウイルスの特徴から一度、牡蠣がウイルスを体内へと吸い込むと消化器官に結合し完全には除去できないとの医学的説もある。