■“ライバル”の存在を気にして……「山菜採りでクマに遭遇」の危険性

 秋田県で22年に捕獲されたツキノワグマの数は442頭。それが今年はすでに1200頭以上が捕獲され」いるというのだから、腹を空かせたクマがいかに多いかがよくわかる。

「秋田県でクマの捕獲数が増えたのは7月以降。夏の食べ物も乏しいのでしょう。硬いメロンや色づく前のリンゴ、白い栗など熟する前の農作物がクマによる被害に遭っている。食える物はなんでも食ってやれ、という印象を受けますので山中で餌を見つけるのが、相当難しいのでしょう」(前出の近藤さん)

 現に10月4日には、秋田県美郷町で畳を作る作業小屋へと3頭の親子クマが出没した。町は翌5日に捕獲し、非常勤職員の手で駆除。すると県庁には「絶滅させようとしているのか」と非難が殺到。こうした外部からの意見を近藤さんはどの様に受け止めているのか。

「事故を防ぐための取り組みという側面もありますし、現代日本社会で野生種を絶滅させるということは許されません。さまざまな思いを持って取り組んでいる中で、殺処分を非難されるのは辛いところでもあります」

 人里へのクマ出現も報じられるなか、紅葉が深まるこれからのシーズン、人とクマはどのような場所で遭遇することになるのか。前出の森林総合研究所の大西さんが明かす。

「山菜採りが最も危ない。東北地域の山菜採りは、趣味ではなく生活の糧として行なっている人も少なくありません。1か月に10万〜20万円山菜取りで稼ぐという人もいるほどです。当然、ライバルには自分が山菜を採っている場所を知られたくない。

 そうなると、クマ避けのために鈴を持って歩いたり、ラジオを流して山歩きをするなんてことはしません。採集中は山菜に夢中で、クマになんて気がつかない。バッタリ出くわして、事故に発展というケースは少なくないのです」

 戦後、薪割りやキノコ採りなどをして暮らしていた人々は、里山を奥山への中継地点として利用していた。しかし、地方では高齢化や過疎化が進んだことで耕作放棄地が拡大。かつての里山も荒地へと姿を変えてしまった。

「結果的に、人間が住む地域とクマが暮らす場所が隣接する形になってしまいました。クマの生息域が増えたことで個体数も増えましたが、その分、人の前に現れる数も増えているということです」(前同)

 人間の生活環境の変化にクマも振り回されてしまっているというわけだ。