■黒子に徹する「唯一無二のMC術」

 下関氏は『アド街』に出演しているが、ロケVTRやZOOMでの出演のためスタジオの井ノ原と直接会ったことはないというが、

「井ノ原さんは、タレントやVTRを辛らつにイジったりせず、優しく見守ってくれている感じですよね。

 愛川さんは自分が前に出て番組を盛り上げるスタンスでしたが、井ノ原さんは地域の人や、パネラーを盛り立てています」

 思えば井ノ原は、有働由美子(54)とメインキャスターを務めた朝の情報番組『あさイチ』(NHK)でも、ゲストや有働アナを立てて進行するスタイルで評判が良かった。

「そんな井ノ原さんの才能が生きていた番組だけに、降板することになるとすれば本当に残念です。かつては愛川さんに代わる人はいないと思っていましたが、井ノ原も唯一無二の存在です。代わる人が思いつきません」

 下関氏に『アド街』で井ノ原が具体的に大活躍した場面を聞いたところ、「ない」と話し、「でも、それが良い」と続けるのだ。

「ジャニーズの記者会見や『あさイチ』は生放送だから印象に残るフレーズもありましたが、『アド街』は収録で編集もあるから、余計に印象に残る言葉がありません。

 井ノ原さんは自分を前に出さずに黒子に徹しているから、“すごく良いこと言ってるよイノッチ!”という場面がない。自分が前に前に出ようとしないで、一歩引いている。これは簡単なようで、なかなかできることじゃありません。それは、むしろMCとして、良いことだと思います」

 最後に、井ノ原だけでなく『アド街』の魅力を聞いてみた。「『アド街』は地元が取り上げられる回くらいしか見なくて……」と記者が言ったところ、

「全然興味のない地域だと見る気もしないでしょうけど、やっぱり知っている場所が取り上げられると見ちゃいますよね。

『アド街』は大きく、強く印象に残ることがないんですよね。出てきたお店はなんとなく覚えているけど、誰がどんな話をしていたのかは残らない。むしろそれが良いんでしょうね。

 井ノ原さんも含めてですけど、尖ったことを言う人がいなくて、当たり障りのないコメントが多い。その“当たり障りのなさ”が、『アド街』では大切なんでしょうね」

 今後、井ノ原は新会社の副社長業に専念するために芸能界を引退してしまうのか!? そうなったら、『アド街』はどう変わるのか……。下関氏に限らず、多くの番組ファン、視聴者が気を揉んでいるに違いない――。

下関マグロ
山口県下関市出身のフリーライター。本名の“増田剛己”名義で『All About Japan』の散歩ガイドを担当しているため、『グッド!モーニング』や『ヒルナンデス!』、『出没!アド街ック天国』などに散歩の達人としても登場。2014年にはフリーライターの北尾トロと食文化保護団体『町中華探検隊』を創設。ライター、カメラマン、漫画家、イラストレーター、編集者、会社員、主婦、料理研究家など、多様なメンバーが参加する組織へと発展し、著作も2016年に『町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう』(立東舎)、2019年に『町中華探検隊がゆく!』(交通新聞社)と『夕陽に赤い町中華』( 集英社インターナショナル)を上梓している。