■「対アリ戦」を渥美清、寺山修司、三船敏郎、王貞治はどう見たか

 まず俳優の渥美清

《このアリ戦など、相手はピストルを構えているようなもの。それを承知で素手で決闘をやるなんて、猪木さんだからできること。全くこの人、やること、なすこと、けたが違うもんね。マイッタよ。》(大会パンフレット)

 寅さん、やっぱり素晴らしい。

 詩人の寺山修司は《この対決は私にとっては一種のロマン、活劇、フィクションです。夢がありますね。ですからこの対決の興味は猪木が勝つか、アリが勝つかという単純な勝ち負けよりも、試合のラストシーンに至るまでのプロセスですよね。虚々実々のかけひきの面白さ、アリ、猪木側とも、どういうラストにしようか画策を練っていると思いますよ。》(スポーツニッポン)

 続いて、この方。

《アリをリングにのせ、引き止めておけただけで『世界の猪木』になったと思う。》(三船敏郎・東京中日スポーツ)

 さすが「世界のミフネ」である。では「世界の王」はどうコメントしたか。

《やっぱり興味ありますネ。いったいどんな戦いぶりになるのか。勝負は引き分けになると思いますが、猪木に勝ってほしいです。》(王貞治・報知新聞)

 あっさり「勝負は引き分けになると思いますが」とポイントをとらえてホームランを打つ世界の王であった。

 当時、王と同じ巨人に在籍していた張本勲はどうか。

《僕は初めから引き分けだろうとみていた。あんなことするから八百長だなんて声があがるんだよ。》(日刊スポーツ)

 そういうとこだぞ、張本。王さんとは気品が違いすぎた。

■アントニオ猪木はいつだって「モノの見方」を私たちに提示してきた

 今読んでも感心するのがこのコメントだ。

《そもそも格闘技のプロが、本気になって喧嘩するのなら、それは見世物にはならぬ、一瞬のうちに決着がつくか、あるいはにらみ合って過ごすかどっちかであり、今回の場合、後者だったのだ。》(野坂昭如・報知新聞)

 キックボクシング経験者でもある野坂氏の言葉、慧眼としか思えない。

 いかがだろうか。当時の文化人、有名人の「コメント力」がわかるから面白い。アントニオ猪木はいつだって「モノの見方」を私たちに提示してきたのだ。それはこれからも同じである。

 私は子どもの頃から、「死ぬなっ、猪木!」と何べんも思ってきた。でも最期の最期まで戦う姿を見せてくれた今回は、安らかにと心から思う。ありがとうございました。

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 猪木は死んだが、猪木を語ることはこれからもずっと続く。アントニオ猪木を好きになるとはそういうことだ――。

 

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