■新日本プロレスの歴史とはまさに「正義と正義のぶつかり合い」
さてここで考えた。「自分たちの勝手な考えを世の中に押し付けようとしていた」のは50年前だけだろうか? むしろ現在のほうがひどくなっていないか? SNSでは互いの正義と正義がぶつかり合い、罵詈雑言が飛び交う。そこにユーモアや寛容はない。自分たちの「アジト」に閉じこもって先鋭化している。まるで連合赤軍だらけじゃないか。赤軍化するニッポン。
そう思いながら新日本プロレス旗揚げ記念日の中継に目をやると、OB19人を招いての記念セレモニーが行われていた。長州力や前田日明もいた。そういえば新日本プロレスの歴史とはまさに「正義と正義のぶつかり合い」だった。ただ、こちらの野心と欲望のぶつかり合いは人々を熱狂させた。自分たちの「アジト」に閉じこもるどころか、世の中にプロレスの面白さ、激しさをアピールしたからだ。赤軍化するニッポンならぬ赤軍化したシンニッポンは最高だった。そもそも長州力は革命戦士と呼ばれていたっけ。
あれから時が過ぎ、セレモニーのリングにいるOB達は和やかな顔である。過去にはそれぞれみんな揉めていた人たちなのに。あの頃のプロレスファンはやきもきしたり興奮したり悲しんだり喜んだりした。しかし、レスラー達は時空を超えて微笑んでいる。
「今は生まれ育った故郷を大切にすることが本当の『革命』だと思っている」。元連合赤軍メンバーは長い時間をかけてその境地にたどり着いたというが、私にはその新聞記事と新日本プロレスのセレモニーがシンクロして見えてしまった。
プロレスというジャンルの寛大さをあらためて感じた。この日、闘病中だったアントニオ猪木の来場はなかったが、猪木という「故郷」の途方もない大きさをあらためて感じたのである。
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猪木は死んだが、猪木を語ることはこれからもずっと続く。アントニオ猪木を好きになるとはそういうことだ――。
教養としてのアントニオ猪木(双葉社)
プチ鹿島
2023年10月18日 発売