■物価高に立ち向かう開発担当者の「思い」とは

 プロジェクトを発足させた金谷氏は、今回の新商品『SCR-B3』の1万2980円という価格について「できる限り1万円くらいで購入できることを目標とした」という。目安は「私基準として、黙って購入してバレても妻に叱られないぐらいの価格」だったと言うが、原材料価格の高騰には悩まされたという。

「世界的な原材料、部品のコストアップに加え、円安の影響を大きく受けました。特にカセット関係部品は世界的な需要の減少から入手困難な状況で、それに伴うコストアップに苦労しているのが現状なんです」(前同)

 クラウドファンディングで得た多くの支援とともに物価高へと立ち向かった「俺たちの青春ラジカセ」プロジェクト。お手頃な価格でラジカセを届けたいという思いは、今年61歳になる金谷氏自身の経験に由来するという。

「私が20代だった頃は、車とオーディオにしか興味がありませんでした。同世代の多くはそうだったんじゃないかと思います。実家にある大型のオーディオシステムは、高校入学のお祝いで両親に買ってもらったもの。ただ、就職をして一人暮らしを始めると、給料の多くは車購入のための貯蓄にまわり、好きなオーディオ機器を購入できるほど余裕はありませんでした。

 でも、どうしても狭い部屋におけるラジカセが欲しいと思い、食費を減らして購入。当時は苦しかったのですが、今にして思うと懐かしい思い出が、“手の届く価格”への原動力だと思います」(同)

 家電量販店では店頭展示、販売を要望するところが相次ぎ、一般販売の売り上げも好調だという。購入者の中には若年層も多いそうだ。

 ただし、「青春ラジカセ」はここで終わりではない。実は10月3日からは、第3弾として全長670mm・重量約9kgとビッグサイズのCDステレオラジオカセ『SCR-B9』の先行販売がクラウドファンディングを通して開始中なのだ。

※画像は「GREEN FUNDING(グリーンファンディング)」の公式X『@GREENFUNDING_JP』より

 縦型CDプレイヤーとカセットプレイヤー、ラジオチューナーなどが付き、カラオケ機能も装備。開発担当である金谷氏の“当時は高額で手が出なかった”という思いから、同商品でも価格にこだわり、これだけ多機能でありながら4万3780円に設定。開発支援は23年12月31日までの目標額である50万円をすでに大きく上回り、11月16日時点で約928万円を達成しているという。

 先行販売では「超早割」(35%オフ、2万8450円)の100台、「早割」(30%オフ、3万640円)の200台はすでに完売(2024年3月より順次発送)。

 バブリーな思い出がある世代の開発担当者が、懐かしい世代にはトキメキを、知らない世代にはワクワクを届けるため、奔走している。

株式会社ドウシシャ
1974年に創業された東京都と大阪府に本社を置くメーカー。家電からマリン用品まで様々な商品を取り扱う。