■「尿モレ対策は女性がするものという偏見」
前出の田中准教授(男性学)は、「尿モレが“問題”だと男性本人に理解されないことが問題」だと指摘し、3つのポイントを挙げる。まず1つ目は、自他ともに男性の身体を雑に扱う鈍感さがあること。2つ目は、男性器が“不真面目”にしか語られない傾向があることだ。
「例えば尿モレを真剣に悩んでいる男性がいても、女性と比べて周囲に共感してもらいにくいばかりか、“本人の気にし過ぎだ”と流されてしまう可能性も大きい。“なんでそんなにおしっこもらしてんの?”と冗談にされてしまう。ギャグとして扱われる傾向があるのは大問題です」
そして3つ目は、「尿モレ対策は女性がするものという偏見」だという。
「これは今では広く浸透している“男性の更年期”と似た経路を辿っていると思います。かつて、更年期といえば女性特有のものというイメージがありましたが、徐々に男性にもあるという認知が広がり、議論も進んできた。
最近徐々に増えている男性の日傘使用も同様です。本来日差しを遮りたいという気持ちは男女関係ないはずで、日傘があった方が快適だということがわかれば使う男性も増えてゆく。尿漏れについても、対策をしたら快適な日常生活が送れるという体験をする人が増えるとケア意識も浸透していくのではないでしょうか」(前同)
また、東京都リハビリテーション病院泌尿器科の鈴木康之医師は、「誰にでも起こりうるという認識になることが大切」だと話す。
「男性は尿道が女性よりも長いため、尿モレが起きやすい体の構造になっています。尿モレは病気以外でも日常的に発生し、たとえば精神的ストレスや長時間の会議、尿道を圧迫するような下着などが要因となることもある。
対策としては“座り姿勢”できちんと時間をかけて排尿することや、締めつけない下着、骨盤底や内転筋を鍛えるなどがありますが、どれも確実とは言えません。尿モレは誰にでも起こりうることを理解し、ケアに努めることが大切です」(前同)
理解が進みにくい男性による尿モレケア。商品の開発を行うユニ・チャーム社も「まずは手軽に取ってほしい」という思いから、11月21日より『快適シート』10cc用の“お試しサイズ”として5枚入パック(税込298円)を期間限定発売するという。
商品を体験した男性(30代)は「肌触りがどうなのかという心配があったが、下着を着けているのと同じでまったく違和感がない。飲んだ後は排尿時も注意力が散漫になっており、気がついたら尿漏れをしていた経験がある。出かける前に下着に付けていると安心かもしれない」と話す。
将来、男性のエチケットとして尿モレケアは“当たり前”になるか。
田中俊之
社会学者。専門は男性学。1975年、東京都生まれ。著書『男性学の新展開』(青弓社)、『(40男)はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男が働かない、いいじゃないか!』(講談社+α新書)など