■雇用側が「バ畜」を育てている裏事情
学業そっちのけでバイト三昧の学生は、今に始まったものでもない。とはいえ、ここに来て「人手不足で学生バイトに労働が集中する」という文脈で注目されることには、複雑に絡み合う雇用側、バイト側の事情がありそうだ。
まずは雇用側。都内の居酒屋で、10年近く採用面接をする立場のスタッフ(30代男性)はこう語る。
「すぐに辞めてしまったり、当日休みたいと言ってくる子が明らかに以前より増えました。もちろんアルバイトなので無理強いはできないが、こちらもシフトを組んでいるので、欠員が生じるのは困る。結局、空いてしまったシフトを他のバイトの子に相談することになる。
決してバイトに無理な働き方をさせたいわけではなく、同じバイトでもすぐ辞めるケースが多いから、少数の使える子にシフトが集まる側面はあるかもしれない。それを“バ畜”と言われてしまうとしたら申し訳ない。もちろん強制はしないように、頼み方には気をつけているつもりですが……」
労働問題に詳しい千葉商科大学准教授・常見陽平氏は、「特に飲食業界の人手不足は深刻」としたうえで、雇用側、バイト側それぞれの問題点を指摘する。
「雇用する側の問題として、特に飲食業界はアルバイトありきのビジネスモデルを作ってしまった。一方で、労働者側は“売り手市場”で、かつ自分の身を守る意識が高くなっているため、少しでも条件が良いところがあれば当然そちらに流れます。結果的に、業界全体として恒常的に人材を募集する羽目に陥っている。
ただし、今は労働者側がハラスメントに敏感な時代。店がブラックだと思われると人が集まらず、ビジネスが回らなくなります。そこで雇用側はアルバイトを大切にする“チヤホヤスキル”を上げているところ。バイトを使い捨てるというよりは、優しく接して囲い込んだ方がいい。結果的にバイトを飼いならす、まさに“バ畜”を育てているのです」